名主の役料

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 役料とは、町入用から支出される一年分の名主の収入であるが、表4-1-4-1を見ると、上は内田勘左衛門の金一三一両二朱余から下は渋谷長谷寺(ちょうこくじ)門前・渋谷御掃除町(ともに現在の西麻布二丁目)の名主である伊藤仁左衛門の金五両三分二朱余まで、その金額は大きく異なる。江戸全体では、最高額は大伝馬町二丁目(現在の東京都中央区日本橋本町、日本橋大伝馬町)に住む馬込勘解由(かげゆ)の金二一二両余、最低額は深川源左衛門屋敷(現在の東京都江東区白河)の名主八右衛門(苗字不明)の金一両一分である(『町々役料高書上』)。
 江戸の名主は専業で、商売などの副業を営んでいないため、役料が主な収入である。この役料について、名主が安定して職務を遂行し生活を維持できる金額は、日本橋・京橋・内神田といった江戸の中心地(場所柄上)では金六〇両、中心地に隣接し主要街道沿いに展開する芝・麴町・四谷・外神田・浅草・深川など(場所柄中)では金四〇両、さらにその周辺の高輪・麻布・牛込・小石川・本所など(場所柄下)では金二〇両とする研究がある(場所柄は町入用の負担額、つまり地主の経済力による区分)(加藤 一九八一、 一九八四)。港区域では、名主番組の八番組に属する地域は場所柄上、九番組と十五番組は中、十番組と十九番組は下に相当するが、これを踏まえて表4-1-4-1を見ると、安定的役料に満たない名主も少なくなく、役料だけでは生活を維持できない名主が存在したと考えられる。
 名主には役料のほか、自身の治める町内で町屋敷の売買や家主の交替が行われた際などに、礼金や祝儀が納められるという役得収入があった。ただし、この類の収入が名主の収入全体のどれくらいを占めるのかは不明であり、名主の経済事情については今後の実態解明が待たれる。