地主と家持

53 ~ 54 / 378ページ
 町人地における地主とは町屋敷を所持する者であるが、地主のなかでも自身の所持する町屋敷に居宅を構えてそこに住む者を家持(いえもち)という。後述の不在地主と区別して居付(いつき)地主ともいう(本章一節一項参照)。幕府に対して務める役(やく)や、町入用は、町屋敷を基準に賦課・負担されるため、町屋敷を所持する地主が町の正規の構成員とみなされた。町人とは、広義には町人地に住む人々全般を意味するが、狭義では役や町入用の負担を果たす者に限定される。
 町屋敷の売買が活発に行われるようになると、他所に住む者が町屋敷を所持するようになる。このような地主を不在地主という。町屋敷は、商人や職人にとっては信用の源泉であるだけではなく、資金調達や借金をするとき、および幕府の御用を請け負う際の担保となるため、江戸内外の豪商や豪農が町屋敷を取得・集積した。いずれの町でも不在地主が多くなり、家持は各町で数人程度に減少したが、周辺部の町では家持の人数は中心部の町より多い傾向がみられる。
 
 江戸最大の豪商である三井家(呉服〈越後屋〉・両替)は、駿河町(現在の東京都中央区日本橋室町)と室町三丁目(現在の東京都中央区日本橋室町)に江戸の本店を、港区域の芝口一丁目(現在の新橋一丁目)には芝口店(本章四節二項参照)を構え、これらの町の町屋敷を含めて、江戸市中で八〇~九〇筆ほどの町屋敷を集積した(吉田 一九九一)。こうした豪商のほか、拝領町屋敷の地主である下級武士なども、自身の拝領した町屋敷に居住していない場合は不在地主といえる。