表店と裏店、家主と店子

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 町の住民は、家持(いえもち)(居付(いつき)地主)、家主(いえぬし)(家守(やもり)・大家(おおや))、地借(じかり)、店借(たながり)という四つの階層で構成された(本章一節一項、同二節一項参照)。幕府への役や町入用を負担するのは地主(居付・不在)、町の運営を担うのは家持・家主であるが、住民の大部分は、役や町入用の負担義務がなく、町運営には携わらない地借・店借である。
 各町を構成する町屋敷の内部は、通りに面した表店(おもてだな)と、面していない裏店(うらだな)に分かれている(本章一節の図4-1-1-2参照)。通り沿いには住居をあわせ持つ店舗が軒を連ねており、表店の多くは家持か自前で家作を建てる地借である。一方、表店の間の細い路地を通った先には、数軒の長屋が建ち並んでいる。通りに面していないこの空間が裏店である。
 
 長屋とは、長い一棟の建物をいくつかに区切り、一区切りごとに一戸とした住宅で、隣家とは壁を共有する。この長屋の一戸は「九尺二間」などと言われるが、九尺は一間半(約二・七メートル)であり、幅一間半(一・五間)に奥行き二間(約三・六メートル)、つまり三坪(六畳、約一〇平方メートル)の広さである。長屋の一戸分は六畳ほどであり、ここに一家族が居住する。このような狭小住宅に住む人々が店借である(なお「九尺二間」はその狭さを象徴する表現であったとみられ、実際にはこれより若干広い事例が多い)。
 この長屋を管理したのが家主(家守・大家)である。彼らは専業の者もいれば、別に生業を営む者もいた。家主は地主から給金(家守給)を受け取るほか、長屋の共用便所の排泄物を売って得た利益などという副収入もあった。住民の排泄物は、周辺農村では肥料として利用されたのである。家主は長屋の住民の世話全般を引き受けたが、住民が店子(たなこ)と称されたように、家主と長屋の住民は親子に擬せられるような密接な関係を形成した。