近世後期の江戸の落語家に、入船扇蔵(いりふねせんぞう)という人物がいる(中川 二〇二〇)。現在は、本業の落語ではそれほど知られていないが、生前に収集した摺り物(印刷物)が注目を集めている。
扇蔵は長年にわたり様々な摺物(すりもの)を収集したが、柳屋秀岱(しゅうたい)なる人物がそれらを帳面に貼り付けた。その帳面は「懐溜諸屑(ふところにたまるもろくず)」と題され、全二八冊が国立歴史民俗博物館に所蔵されている。摺物は約三四〇〇点に上り、天保期(一八三〇~一八四四)から安政期(一八五四~一八六〇)にかけての、店舗の商標・引札(ひきふだ)(広告)や、寄席・歌舞伎あるいは火事・地震などに関する、多様な一枚摺が貼り込まれている。