表4-4-4-1 港区域の引札・商標
「懐溜諸屑」国立歴史民俗博物館所蔵 館蔵『懐溜諸屑』データベース参照
上記のほか「田町一丁目」で「上酒」を扱う「大長」が確認されるが、同町が江戸の田町であることを特定できず、本表に含めていない
図4-4-4-1 「懐溜諸屑」にみられる引札・商標
国立歴史民俗博物館所蔵
表4-4-4-1の三五店のなかで『江戸買物独案内』に掲載されている店舗は、芝口二丁目の京菓子の蟹屋(かにや)(『江戸買物独案内』では蟹屋半次郎)、「花の露」を売る芝神明前の花露屋、そして田町四丁目で「反魂丹(はんごんたん)」を販売する堺屋(さかいや)長兵衛の三軒である。芝口の蟹屋は、「六菓煎」(六歌仙をもじったもの)シリーズの団扇(うちわ)絵で「芝口の唐まつ」として描かれる唐松煎餅が名物の菓子屋である(今村 二〇一八)。芝神明前の花露屋は、医師の喜左衛門(喜右衛門とも)が創業したと言われる、江戸初期から明治まで続いた化粧品店である。「花の露」はその看板商品で、当初は化粧油として、近世後期には化粧水として販売された(ポーラ文化研究所編著 一九八九)。「反魂丹」は「越中富山の反魂丹」などとして全国的に知られる薬である。富山の売薬商人が江戸時代に全国に広め、天明期(一七八一~一七八九)には江戸がその販路に組み込まれている。芝田町の堺屋長兵衛は江戸の販売店の一つとして知られていた(富山県 一九八七)。
『江戸買物独案内』は文政七年(一八二四)に大坂で出版された案内書であるが、同書に載る店はすべて掲載料を支払っており、未納の店舗は有名店であっても掲載されなかった。つまり、同書に掲載されたこれらの三店は、掲載料を支払える資金力を有する、江戸の有名店・人気店であったと言える。