港区内で発見された町屋跡遺跡は、四か所の門前町屋跡遺跡を含め三一か所(令和三年〈二〇二一〉三月一日現在)ある。分布が概して希薄なのは、江戸市中における町人地の占有面積が少なかったことに加え、町人地該当地における開発等の事業計画が、試掘調査の実施にかかわる行政上の指導基準に満たない場合が多い点も、その理由として挙げておきたい。
ところで港区は、道路境界あるいは隣地境界周辺の発掘調査は、安全上の観点から原則として行わないこととしている。また、港区内は道路に沿って地中構造を持つ堅牢な建物が並ぶことが多いため既に遺跡が消失している場合が多く、したがって町屋跡遺跡で表店に相応する区画の全域が調査されることはほとんどない。こうした点を念頭におき、ここでは、神谷町町屋跡遺跡(No.189)、芝田町五丁目町屋跡・丹波亀山藩松平家屋敷跡遺跡(No.144)、麻布龍土町町屋跡遺跡(No.171)を中心に、町屋の形成過程や空間構成を考え、暮らしの一端を垣間見よう。