近代日本の「窓」としての港区域

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 以上のように、近代における港区域の実態を明らかにしていく作業は、日本の近代史そのものを明らかにする作業と重なる側面が極めて多い。また同時に山の手の高燥の地も、東京湾を眼前にした下町の地も併せ持つというその地理的特性により、港区域は、近代史の表舞台であるとともに、楽屋裏――舞台に立った人々や様々な意味においてそれを支えた多様な立場の人々の生活空間――でもあったことに気付かされる。
 芝区・麻布区・赤坂区という行政区域における、土地利用、政治・行政、教育、経済、衛生・社会事業・公安、宗教、軍事・兵事、それぞれの分野を見ていくとき、表舞台の事実の背景となった地理的条件、人的関係性の交錯などの視点をも同時に得ることができるのである。五章に置いた文化や文化財は、それら歴史の担い手となった有名無名の人々によって残されたもの、失われたものを意識させ、それらを通して、現代の港区と近代の連続性への視点を与えてくれるものとなるであろう。(都倉武之)
 

図-序-1-1 港区域の近代の行政区分

注)旧三区の区画と区役所の所在を示し、国土地理院(https://gsi.go.jp)陰影起伏図を重ねた。地形と道路網は現在のものである。区役所および施設は昭和10年(1935)頃の所在を示している。
次の施設を記載した。
・主に台地上に所在する近代の港区域の歩みを象徴する施設(皇族以外の個人邸宅をのぞく)で比較的大きな土地区画を有するもの。
・鉄道関連施設