港区域にできた近代工場の先駆けとして、田中製造所を見逃すことはできない。田中製造所は、「からくり儀右衛門」として知られる初代田中久重（ひさしげ）が銀座に興した機械製作所を、弟子であり養子である田中大吉（二代目田中久重、一八四六～一九〇五）が明治一五年（一八八二）に芝浦に移転させたものである。工場では海軍の兵器や通信機、その他各種機械を製作した。この工場からは、沖電気を創業した沖牙太郎（おききばたろう）、池貝鉄工所を創業した池貝庄太郎（いけがいしょうたろう）、宮田工業創業者宮田栄助（えいすけ）らが出ている。
　田中製造所は海軍の指名注文という強みから当初順調に発展していったが、それが競争入札に変わると経営が苦しくなり、明治二六年、債権者の三井銀行から藤山雷太（らいた）を招聘（しょうへい）、名称を「芝浦製作所」とし、経営を再建した。芝浦製作所はのちに東京電気株式会社を合併し、今日の東芝に至る。