東京市方面委員は、その「方面」に長く居住し、人格者にして、社会救護に従事する能力のある者が就任するとされ東京市長が嘱託した。
大正一三年(一九二四)に当時の東京市社会局が把握したのは、先の八区二九方面で、委員の総数は四二五名である。方面委員一人あたりが担当する世帯は約三五〇~五〇〇であり、このうち方面委員の調査により「細民(さいみん)」とされたのがその一割ないし一割五分であった。「細民」はのちに記す「方面調査カード」の作成にあたり用いられた「等級」に基づいていた。方面委員一人あたりの担当する細民世帯数は、四〇~五〇となり、これらの世帯に対して各委員は「徹底的指導者」であろうとした。方面委員は、担当する細民世帯の窮状をよく知ることができたことから、収集した情報に基づき「保護指導の道」を実行した。
市では、細民世帯の自立を、行政の活動のみで達成できるとは考えておらず、「公私協力一致」して初めて、治政の目的や運用の成果が達成されうるとした。そこで方面委員を汎く地域住民に嘱託し、住民と行政とからなる「官民合同の機関」としてのその活動に期待していたのである。
市下にはすでに少なくない私立の救護団体があり、それぞれ活動は認められてはいたが、救済の効果を十分に上げているとはいえなかった。一方で、行政の立場からの救護は網羅的ではあるが、「自発的、経済的、温情的」の点で課題が存した。そのためこの両者の課題を緩和するべく「公私合同の制度」が求められるようになり、方面委員の設置が進んだ。これを設置することでとくに以下の点に効果を発揮することが期待されていた。
調査の正確、救助の徹底、監督の周到、秩序的行動、温情的指導、自助的保護、自宅救助
これらは東京市から見れば、「公私社会事業」の「長所」であった。そしてこの長所を生かして、以下の事項の取り扱いを方面委員に求めていた。すなわち、①細民生活状態調査、②積極事業、③相談指導、④保健救療、⑤戸籍整理、⑥周旋紹介、⑦金品給与、⑧育児奨学、⑨保護救済、⑩その他である。
①細民生活状態調査では(1)方面調査カードの作成、(2)家庭訪問、(3)方面デー、(4)臨時調査および応急処置の活動に方面委員は従事した。