(1)方面調査カードの作成
方面委員は、担当方面の細民の日常の状態を精査して一つの「カード」に記入し、一目でその状況を知ることができるように整理する。このカードは、方面委員の活動に際しての「第一の基礎材料」であった。
「方面調査カード」の重要性は東京市にあって、医師の患者の診察や建築家の測量のようなものであり、生活の状態を調査して初めて適切なる社会事業の計画を立てることにつながるとの判断にあって活用が予定されていた。医師が診察をすることなく投薬することや、測量、これに基づく設計なくして道路や橋梁工事にとりかかることが無謀であり、危険な行為であることは万人の同意することであり、社会事業も被救護者の生活実情の調査を等閑(とうかん)に付せば、濫救漏救(らんきゅうろうきゅう)に陥ることもまた容易となった。「方面調査カード」は、方面委員が活動する際の羅針盤であった。
「方面調査カード」の作成には2段階の過程を要し、まず図3-5-2-2および図3-5-2-3に見るように「第一期調査」として全世帯数及び家族の状態を調べ、そのおかれた生計の状況により等級を付すことが求められた。ここでの作業において丙および窮民に分類されるのが「細民」となり、さらに第二期調査にてその生活実態を所定の形式に従って審査した。ここに「方面調査カード」が完成する(図3-5-2-4)。このカードの裏面には救護取り扱いの年月日およびその概要を記すこととなっていた。これらは大正期のものであり、昭和期以降、等級や様式は適宜改められていった。
「方面調査カード」の作成にあたっては住民の理解も重要であった。住民の理解なくして進めたならば、誤った情報が収集される可能性を否定できなかった。
右上:図3-5-2-2 東京市方面委員「第1期調査様式」(表)
左上:図3-5-2-3 東京市方面委員「第1期調査様式」(裏)
下:図3-5-2-4 「方面調査カード」
『東京市方面委員制度』(東京市社会局、1924)、近現代資料刊行会編『東京市社会局調査報告書 9』大正13年(1)(SBB出版会、1995)所収
(2)家庭訪問
方面委員がその救護の道を誤ることなく、この徹底を実現するためには、常に細民に接触してよく相互の親和をなすことが大切とされた。この接触が多ければ多いほど、その内情を精密に窺知(きち)し、調査の正確性も向上する。家庭訪問はかくのごとき重要視されたもので、「方面委員」はときとして「訪問委員」と唱えられることもあったという。
この家庭訪問には、救護上の便宜を図ることは勿論のこと、紛争の未然防止、疾病予防やすみやかなる療養につなげるなどのことが期待されていた。
方面委員は家庭訪問に際しては巡視のための「カード」を携帯し、知りえた情報を記録する。これは日票となり直ちに方面事務所に報告し、「方面調査カード」の整理および取り扱い事項の報告の際の材料となった。
(3)方面デー
大正一一年(一九二二)一二月には、公・私立の大学生とともに、各「方面」一斉に「生活状態調査簿」に基づいて戸別訪問をなし、歳末における生計の実情を聴取して、困窮者に対して適当なる方法を講じた。調査の時期を同一にして普段の状況と比較研究するのに有効であったと、東京市はこの「方面デー」の活動を評価した。
(4)臨時調査および応急処置
大正一一年八月の暴風雨による被害、大正一二年九月の関東大震災の被害の後における要救護者の調査にあたっては、方面委員の活躍をみた。