なお、芝区は港区域のなかで最も江戸文化の連続性が目立つが、新しい時代の文明の入り口としての役割も果たしていた。白金三光町から府立第一中学校(現在の都立日比谷高等学校)に通っていた若き日の大佛(おさらぎ)次郎は、近所の友人たちと「伊皿子にいたアメリカ人宣教師コールマン、その帰国後には三田聖坂のフレンド女学校の中に家のあったボールスさんのところで催されるバイブル・クラスにも皆で出席した」(大佛 一九八三)という。「英語で聖書の講義を聞いただけである。入信は出来なかった」とも記しているが、このように欧米文化が身近にあったことは麻布区・赤坂区にも共通しており、港区域全体の大きな特徴の一つであったと考えられよう。