昭和の戦前期に刊行された『芝区誌』『麻布区史』『赤坂区史』においては、明治以降も文化財の範疇に入っているが、その中心は、とくに国の史蹟指定から漏れた「明治天皇聖蹟」や、皇室に関連した施設となっている(現存しない施設のみ所在地を示す)。
『芝区誌』では、有馬別邸趾(高輪四丁目)、増上寺、品川駅、新橋駅趾(東新橋一丁目)、毛利元徳邸(高輪四丁目)、新銭座操練所趾(東新橋一丁目)、工部省工作分局趾(三田一丁目)、三田種育場趾(芝三丁目)、伊藤博文別邸趾(高輪四丁目)、黒田清隆邸趾(三田二丁目)、松方正義邸趾(三田二丁目)、弥生社趾(芝公園二丁目)、後藤象二郎邸趾(高輪三丁目)が聖蹟として掲載された。
『麻布区史』の場合、聖蹟として、静寛院宮(せいかんいんのみや)邸(のち麻布御用邸・東久邇宮(ひがしくにのみや)邸、六本木一丁目)、島津忠義別邸(南麻布三丁目)、井上馨邸(六本木五丁目)、歩兵第三連隊(六本木七丁目)、三条実美邸(六本木一丁目)、川村純義邸(麻布台二丁目)が掲載され、名所旧跡にも、東久邇宮邸阯(六本木五丁目)、久邇宮邸阯(香淳皇后誕生地、六本木五丁目)、李王家邸阯(六本木五丁目)などが詳細に掲載されている。
『赤坂区史』の場合、赤坂離宮、青山御所、大宮御所、東宮仮御所、表町御殿、三笠宮御殿(以上、いずれも元赤坂二丁目)、明治神宮外苑、聖徳記念絵画館、憲法記念館(現在の明治記念館)、旧乃木邸が掲載されている。
それ以外に挙げられている史蹟は、各区ともごくわずかで、『芝区誌』の三田演説館、開南丸抜錨記念碑、『麻布区史』の東京天文台(麻布台二丁目)、東京府養生館(南麻布五丁目)、有栖川宮記念公園、横川省三記念公園、『赤坂区史』では演技座(赤坂二丁目)、黒田侯爵邸(赤坂二丁目)、勝海舟邸跡(赤坂六丁目)、青山墓地など、極めて限定的であった。 (都倉武之)