昭和三九年に成立し、翌年四月に施行された地方自治法の改正により、特別区の事務の範囲はこれまでの一〇項目から、法令によって市が処理することになっている一部事務の事務を含む二一項目に拡大した。一方で、これまで港区も含め特別区側が要求してきた区長公選は果たされず、財政権の確立の問題については曖昧な部分が残されたままであった。この改革は事務事業の移管に重きを置いたものであったのである。
なお事務事業の移管としてはこれにより、改正前の法においては限定されていたものが例示規定となり、新しい事務が加わった。この改正によって新たに区の事務となったのは次のとおりである(特別区協議会 一九八三)。
①福祉に関する事務所及び民生委員推薦会を設置し、児童福祉施設、公益質屋、宿泊所及び生活館を設置し、及び管理し、その他社会福祉に関する事務を行なうこと。
②国民健康保険を行なうこと。
③保健所及び優生保護相談所の施設の管理に関する事務で政令で定めるものを行なうこと。
④産業の振興助成に関する事務を行なうこと。
⑤生活保護、身体障害者福祉、精神薄弱者福祉、行旅病人及び行旅死亡人の取扱い、売春防止並びに老人福祉に関する事務を行なうこと。(※)
⑥伝染病予防、トラホーム予防及び寄生虫病予防に関する事務を行なうこと。ただし、政令で定めるものを除く。(※)
⑦汚物の収集及び運搬に関する事務を行ない、公衆便所及び公衆用ごみ容器を設置し、及び管理し、並びに大掃除の実施計画に関する事務を行なうこと。(※)
⑧土地区画整理事業及び市街地改造事業を行なうこと。ただし、政令で定めるものを除く。(※)
⑨防災建築街区造成事業及び防災建築街区造成に関する事務を行なうこと。ただし、政令で定めるものを除く。(※)
⑩建築基準行政に関する事務を行なうこと。ただし、政令で定めるものを除く。(※)
⑪競馬を行なうこと。
(※は法令によって市が処理することになっているものである)
この改正はいわゆる「東京都の身軽論」を進める事務移譲によって進められた。事務の移譲としては当初から特別区側としては、保健所・福祉事務所・清掃事業の移管を主張してきたが、そのうち保健所は施設の管理など一部に限定され、福祉事務所は事務移管を果たされた。これによって付随する一般市が処理することとされている生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉、予防接種等が区の事務となった。
清掃事業については地方自治法において「汚物の収集及び運搬に関する事務を行い、公衆便所及び公衆ごみ容器を設置し、並びに大掃除の実施計画に関する事務を行うこと」と具体的に明記された。しかし、付則で施行期日「別に定める日から施行する」と但書きがなされ、実際は都の事務のまま続くこととなり、その後の都区制度改革をめぐる重要な論点となっていく。
また、六章で詳しく述べることとなるが、財政調整に関する制度は特別区財政平衡交付金制度から特別区財政調整交付金制度に改められた。さらに、都知事や区長の権限に属する国の事務の管理、執行、財源の配分、および都特別区および特別区相互間の連絡調整を図るために、東京都と特別区の代表で構成する都区協議会の設置が地方自治法において法定で定められた。なお、都区協議会は都の附属機関でも区の附属機関でもなく、具体的な行政についての執行権を有するものではないものと位置付けられた。また都区の事務処理についての意思決定機関でもなく、都と特別区の諮問機関に類似した性格を持つものとされた。一方で都から特別区に対する「事務委任条例」「都区財政調整条例」および「特別区調整条例」の制定の場合、都知事は予め都区協議会の意見を聞かなければならないことになった。またそれに伴い、特別区の議会その他学識経験を有するものの意見または特別区の意見を聴取する制度は廃止された。