大胆な財政構造改革の断行

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平成四年度以降、港区の財政は、区税収入が急激に減少する一方、歳出規模が増大するという危機的状況に陥っていた。この税収と歳出の大幅なギャップを補うため、平成六年度以降は公共施設建設基金に加え、区の財政調整基金を大幅に取り崩した。平成八年度予算では歳出規模を大幅に抑えたが、財政調整基金の取り崩し額が歳出規模の一割を超えるという事態に陥り、このままの財政運営を続けていけば、同九年度には基金がほぼ底をつく状況となっていた。この状況を脱却するためには、歳出の適正化を計画的に進めることだけでは十分でなく、一〇〇億円を超える歳入不足を解消するため、創意工夫や節約、新規事業の抑制に加え、執行体制や事務事業の抜本的な見直しによる大胆な財政構造の改革が必要とされた。そこで港区は、平成九年一月、同一一年度までの三年間で財源不足を解消するための「財政構造改革指針」を策定した。
【財政構造改革指針の基本的考え方】 財政構造改革は、以下の五つの基本的考え方に基づいて実施されることが示された。
①社会経済情勢の変化に的確に対応するとともに将来を見据えた長期的な視点に立って財政構造の改革を図ること。
②行財政構造を改革するに際しては区民の理解と協力が不可欠であり、執行体制の見直しをはじめとした内部努力を徹底すること。
③区民から預かった税金を効率的に活用し、より効果的に還元するため、最少の経費で最大の効果を上げることを旨とし、効率的な行財政運営を徹底すること。
④限られた財源を重点的・効率的に配分するため財政構造の改革に当たっては、施策、事務事業の優先順位を十分に検証し、事務事業のスクラップ&ビルドを徹底すること。
⑤歳入を適切に見積もった上で歳入に見合った規模に歳出を適正化すること。
【歳出規模の適正化】 歳出規模の適正化については、一〇〇億円を超える財源不足が生じることを踏まえて、平成九、一〇、一一年度で、それぞれ一般財源等充当経費で、四〇億円、三九億円、三八億円と段階的に削減し、一一年度には財源不足を解消することが目標とされた。
【人件費削減策と人事管理の改革】 歳出規模の適正化を図るため、はじめに取り組むべきと考えられたのが内部努力の徹底、特に人件費削減を中心とした人事管理の改革である。
そこではまず、中長期的な職員定数配置計画と定数削減目標の設定がなされ、職員採用の抑制や再雇用職員の活用などにより、今後一〇年間で約四〇〇人の削減が目標とされた。また、過去の実績や今後の事業動向を踏まえ、職員の配置基準を新たに策定するとともに、策定に際しては再雇用職員や非常勤職員を含めたトータルマンパワーを配置基準とすることが示された。このほかにも、職員の能力や業績に応じた人事管理・人材育成を行うための、自己申告制度や業績評価制度の導入、超過勤務時間の縮減と時間外勤務手当の削減、特殊勤務手当の見直し、報償費等の支給の適正化によって、これを実現することとした。
【事務事業の抜本的な見直し】 事務事業全般についても、必要性・緊急性・費用対効果などのあらゆる視点から廃止・縮小・休止・先送りを含め、ゼロベースで見直しを行うとされた。また見直し対象は聖域を設けず、すべての事務事業とすることとされた。具体的には、社会経済の変化等によりニーズが変化している事業や類似または同種の事業については廃止・統合・縮小・再構築を、他団体と比較して水準が突出している事業や法令等の基準と乖離している事業についてはサービス水準の適正化を図ることが示された。このほか、事務事業の簡素・効率化、公共施設関連経費の見直し、補助事業の見直し、民間との役割分担の見直しおよび民間活力の活用、出資法人等の見直しなど、多岐にわたる項目が提示された。
【歳入の確保に向けた施策】 歳入確保に向けた施策としては、滞納繰越額の圧縮に向けた取組を強化することによって区税収入を確保したり、国民健康保険料等の徴収率の向上を図ることが挙げられるとともに、受益者負担の適正化を目的とした使用料・手数料の改定、区有財産の有効活用などの施策に取り組むことが示された。
【「財政構造改革中間まとめ―区の財政構造は着実に改善」の策定】 財政構造改革の取組は、短期間に一定の成果を上げることができた。平成一〇年七月に報告された財政構造改革中間まとめによると、同九年度は当初九六億円の財源不足が見込まれていたが、単年度における実質的な財源不足額は四四億円にまで圧縮されるとともに、震災対策基金を創設するなど、今後の社会経済情勢の変化に備えた財政基盤の整備を行うこともできた。また、経常収支比率(前年度比一・九ポイント減の94・7%)や実質収支(前年度比五億円増の二三億円)が八年ぶりに好転するなど、財政構造は着実に改善された。
さらに平成一〇年度予算では人件費の削減をはじめとして、事務事業の徹底した見直しを行い、同九年度に引き続いて大幅に歳出額を削減した。この結果、財政構造改革指針における財政収支見通しでは財政調整基金の取り崩しが必要だったが、当初の目標より一年早く財政調整基金に依存しない財政運営が実現できた。ただし、平成一一年度においてもなお三〇億円程度の財源不足が生じる見込みであるほか、同一二年度には介護保険制度導入や都区制度改革などに伴う新たな財政需要が発生するなど、引き続き財政構造改革を推進し、財政基盤を強化する必要があることも合わせて示された。
【「港区財政運営方針―ゆるぎない区財政の構築をめざして」の策定】 平成六年度以降続いていた実質単年度収支の赤字は、同一〇年度決算において黒字に転換した。しかし、職員の人件費など義務的経費の割合が歳出の五割を超えるなど、依然として区の財政状況には改善の余地が残されており、平成一一年一二月、「港区財政運営方針」が策定された。
この方針では、①実質的な黒字の維持、②財政の弾力性の向上、③自主財源の確保、④予算編成手法の改善という四つの目標が掲げられるとともに、区債発行基準(3%ルール)の新設や、財政状況の積極的な公開など七つの具体的取組が示された。
【食糧費不適正処理問題とその対応】この時期の財政運営を論じるにあたり、港区政を大きく揺るがした食糧費不適正処理問題を避けて通ることはできないであろう。
平成九年三月の第一回港区議会定例会で指摘されたこの問題に対し、当時の菅谷区長は「真摯に受け止め、徹底的な調査を実施する」と表明した。そして区は早速、食糧費および旅費について、全庁をあげて厳正かつ的確に実態調査を実施するため、「港区食糧費等調査委員会」を設置した。調査委員会には、助役(委員長)、収入役(副委員長)、区の幹部職員七人が委員として、さらに調査の厳正かつ公正さを確保するため民間の知識経験者である税理士が専門委員として参加した。
調査に際しては、一件ごとに徹底した自己点検を実施した。その後、すべての課(五〇課)に対して、調査委員会が事情聴取を行った。また、これらにあわせて、自己点検と事情聴取の内容が事実と整合しているかどうかを確認するため、契約業者あるいは訪問先、宿泊先への関係人調査を行うなど、徹底した事実解明が行われた。
平成九年一〇月二九日に報告された調査結果は、次のとおりである。
①食糧費対象件数の六一四七件のうち重大な不適正処理と分類されたものは六〇〇件で、計二九一六万
四九六三円、このうち客観的資料等により支出額の一部が確認できた金額を除いたものは計一九七八万三八二六円であった。軽度な不適正まで加えると二五八九件となり全体の42・1%に及んだ。この中には参加人数を水増ししているものや、会議の実態が確認できないものなどがあった。
②近接地外旅費対象件数五三四六件のうち、不適正処理に分類されたものは、二二五件で計六六三万
一六五六円。この中には、旅行命令簿の旅行人数と実際の人数が異なるものなどがあった。
③使途について不適正処理による資金の多くは、事業執行上の不足経費への充当や、関係団体への助成など、他の費目に流用されたもので、いずれも公務遂行上の支出に充てられていた。また、一方で事業実施後の慰労会の経費に当てられたものや、一部の流用額について、その使途を明らかにできないものもあった。しかし、事情聴取の結果等により、私的に使用していたという確証を得られたものはなかった。
この調査結果が報告された後、平成九年一二月一九日、不適正処理と認定された二六四一万円余に5%の利子を加えた三〇六六万円余が区に返還された。
また区は、二度とこのような不祥事が起こらないよう、会計処理方法の改善、前例踏襲などの慣例・慣行などの見直し、旅費の出張が適正かつ効果的に実施されたかを検証できる仕組みの検討などの改善方策をまとめるとした。また、これらの改善方策を全庁的に押し進めるため、「港区公費支出等改善検討委員会」を設置し、金券類の適正管理や旅費に関する出張計画書、報告書の提出の義務付け、所属長による報告書の確認、原則として資金前渡しは認めないことなどを全庁に周知徹底した。