〔第一項 全体像の社会地図〕

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前節では、港区の人口について概説した。この節では、港区がどのような地域社会から構成されているのかを概説したい。地域社会について概説するといっても、社会は目に見えないし、手で触ることもできない。一見捉えどころのないものに思える地域社会を可視化する方法はあるのだろうか。また、可視化する意義はあるのだろうか。
それぞれの住民の生活は、地域社会という環境の下で営まれているのであるから、住民の生活は地域社会から影響を受けている。一方で、それぞれの住民の生活の集積が地域社会を構成しているのだから、地域社会は住民の生活集積の結果であるともいえる。住民の生活の原因でもあり、同時に結果でもある地域社会の姿を可視化する方法がある。それが社会地図である。
この節では、平成二七年(二〇一五)国勢調査の小地域統計を用いて港区の社会地図を作成し、港区を構成する地域社会の姿を可視化してみたい。「人口密度」や「年少人口比率」のように特定の主題に基づき社会地図を作成し、港区を構成する地域社会の姿を可視化することができる。ただし、この場合それぞれの視点から見た港区の姿を可視化することにはなるものの、全体像を捉えることは難しい。
そこでまず、クラスター分析という統計手法を用いて、社会的に似通った生活を営む人々が集住している地域を「社会地区」として析出することにより、全体像を描き出すことを試みる。「人口密度」や「年少人口比率」といった小地域統計で表章されている港区の姿を多角的に描き出す三一変数から、同じ事象を測定しているとみなすことができる八変数を除いた二三変数を用いて、階層的クラスター分析を行った。クラスター分析の結果、五つの社会地区が析出された(図3-3-1-1)。凡例は、人口密度の高い社会地区から低い社会地区になるように並べ替えて作成した。
「人口集中区外就業者地区」は、五つの社会地区の中で最も人口密度が高い社会地区であり、相対的に港区の南部に分布している。被雇用者として就業している人の比率が高く、中でも情報通信業に従事する人の比率が高い。また、港区外で就業している人の比率も高いという特徴を持つ。近年のグローバル化を支える情報通信業に従事し、港区外で就業している人々が、高い人口密度のなかで暮らしている社会地区である。
「人口流入単身世帯地区」は、二番目に人口密度が高い社会地区であり、相対的に港区の北部に分布している。生産年齢人口比率が高く、未婚者比率・単身世帯比率が高い。また、民間の借家比率も高く、一年未満居住者の比率も高いという特徴を持つ。港区外から就業のチャンスを求めて流入し民間の借家で暮らしている、若年の単身者が多く暮らしている社会地区である。
「公営借家高齢地区」は、計画的に整備される公営・都市再生機構・公社の借家比率が高い地域であり、北青山一丁目・北青山三丁目・芝五丁目・台場一丁目の四地区に限定的に存在している社会地区である。老年人口比率・後期高齢者人口比率が高く、高齢化が進行した地域である(台場一丁目を除く)。また、被雇用者として就業している人の比率が高く、中でも宿泊業・飲食サービス業で就業する人の比率が高い。また、都内の他市区町村で就業している人の比率が高いという特徴を持つ。公営住宅で暮らす高齢化が進行した社会地区である。
「人口流入区内就業者地区」は、麻布から六本木にかけて分布しており、一年未満居住者の比率が高いという特徴を持つ。年少人口比率と核家族世帯がともに高く、人口再生産がなされている地域である。外国人人口比率も高く、製造業従事者比率と金融・保険業就業者比率が高く、港区内で就業している人の比率が高いという特徴を持つ。港区外から、港区内での就業のチャンスを求めて流入した核家族世帯が多い社会地区である。
「自営業持家高齢地区」は、主に青山と新橋に分布しており、人口密度が最も低い社会地区である。女性が多く、老年人口比率が高く、持家比率と一戸建て世帯比率が高い。出生時から暮らしている人の比率が高く、自宅で就業している人の比率が高い。卸売・小売業と宿泊・飲食サービス業就業者の比率が高いという特徴を持つ。持家で自営業を営む高齢女性が多く暮らす社会地区である。

図3-3-1-1 港区の全体像クラスター図

2015年国勢調査の小地域統計から作成。凡例の( )内の数値は小地域数