本章では、港区の過去の姿、現在の姿、そして未来の姿を、データに基づいて概観・予測してきた。戦後日本の人口移動データからは、高度経済成長期を契機に、地方都市から三大都市圏への人口の流入が生じたことが示された。その後、経済低成長期、バブル経済・崩壊期、平成不況期を経て人口減少時代を迎えた日本社会は、三大都市圏に大量に人口が集積しているという形で、その局面を迎えることとなった。
港区は、戦後から昭和四五年(一九七〇)までは転出数が転入数を上回る社会減を経験する。バブル経済期には、地価の高騰による急激な人口流出も経験し、危機感を持った港区は、「住み続けられるまち・港区」を目指して区民向け住宅整備、民間住宅供給支援・誘導等の政策を展開した。その効果もみられ、平成八年(一九九六)以降は同二七年現在まで社会増が続いている。
このようにして港区に流入した人々は、どのような地域社会を構成しているのか。社会的に似通った暮らしを営んでいる人々が集住する地域を統計処理によって社会地区として析出する社会地区分析を行った結果、港区は五種類の社会地区によって構成されていることが示された。近年のグローバル化を支える情報通信業に従事し、港区外で就業している人々が、高い人口密度のなかで暮らしている「人口集中区外就業者地区」。港区外から就業のチャンスを求めて流入し民間の借家で暮らしている、若年の単身者が多く暮らしている「人口流入単身世帯地区」。公営住宅で暮らす高齢化が進行した「公営借家高齢地区」。区外から、港区内での就業のチャンスを求めて流入した核家族世帯が多い「人口流入区内就業者地区」。持家で自営業を営む高齢女性が多く暮らす「自営業持家高齢地区」である。これが現在の港区の姿であると考えられる。
過去の人口の変化が将来にわたって同様に続くと仮定すると、人口推計を行うことが可能となる。日本の将来人口推計をみると、令和二年(二〇二〇)以降、少子高齢化がさらに進行すると予想されている。それに対して、港区の将来人口推計をみると、日本社会全体で危惧されている急激な高齢化は予想されていない。
この人口推計は、「これまでの人口の変化が将来にわたって同様に続く」という仮定に基づいている。この仮定が崩れない限りは、港区は日本社会全体の傾向とは異なり、急激な高齢化は予想されない。しかしながら、就業・就学のチャンスを求めて港区に流入する若年層が、今後何らかの要因によって減少した場合は、四節二項で示した将来人口推計とは異なる未来が生じることとなる。
令和三年現在、新型コロナウイルス感染症の爆発的な感染拡大が進行しており、収束の時期は見通すことができない。リモートワークによる就労や、タブレットを活用した学校教育などが、今後も主流となった場合、就業・就学のチャンスに恵まれた都心に居住することのメリットは目減りする。そうなった場合にも、若年層にとって港区が「住み続けられるまち・港区」として選んでもらうことができるかどうか。今後も慎重にモニタリングを続け、さらに重要なことはモニタリングにより港区のおかれている状況を把握し、港区の目指す将来像に向けた施策を展開していくことである。 (浅川達人)