だが、内務省の意に反してこの廃止措置を甘く考え、旧町会長が発起人となった形ばかりの任意団体が作られたり、町会役員をそのまま市区町村の嘱託員に任命しようとしたりする動きが各地で見られた。
そのため、三月二四日に改めて内務省が内務次官声明を出して町会関係者の行動自粛を求め、三月二九日には各地方長官宛に管内市区町村の指導徹底を呼び掛けた。しかし、既に長期間にわたって地域に根を下ろしている隣保組織が国の呼びかけ一つで霧消するはずもなく、実態としては依然として町会のような組織が従来のまま活動を継続している例が各地で見られた。とりわけ、四月五日に実施された都道府県知事・市区町村長選挙では、町会役員などがこれまでの地位を利用して選挙運動を展開していたことが内務省への報告でも確認されていた。
この事態を見かねたGHQは、旧町会長の公的支配力を絶滅させる「立法措置」を内務省に指示し、これをもとに急遽作成されたのが、政令第一五号「昭和二十年勅令第五百四十二号ポツダム宣言の受諾に伴い発する命令に関する件に基く町内会部落会又はその連合会等に関する解散、就職禁止その他の行為の制限に関する件」であった。この政令第一五号は、施行通達すら行う間もないまま、五月三日に新憲法と地方自治法の施行に合わせて施行された。
この政令第一五号により、従来の町会は名実ともに終止符を打つこととなった。その概要は次のようなものであった。
①昭和二〇年九月一日以前から昭和二一年九月一日まで引き続き町内会長等の職に在った者は、四年間は、それらの事務を扱う地位(市町村の出張所長等)に就けないこと。
②町内会等の財産は、政令施行後二箇月以内に、その構成員の多数の議決により処分すること。処分されないものは、市町村に属することとなること。
③官公吏等はその職務を行うため、町内会等その他類似団体の組織を利用する目的を以て指令を発してはならないこと。
④従前の町内会長等はその地域の住民等に対しいかなる指令も発してはならないこと。違反した場合は一年以下の懲役もしくは禁錮または一万五〇〇〇円以下の罰金に処す。
⑤配給等に関する証明で従前町内会長等が行っていたものは、この政令施行後は官公署の職員以外の者が行っても効力がないこと。
⑥従前の町内会等の解散後結成された類似団体は昭和二二年五月三一日までに解散すべく、解散しないときは知事が解散を命ずるものとすること。
⑦国民に対し配給を行う者は、配給を受けるべき者が特定の組織に加入していないことを理由として配給を拒んではならないこと。
なお、この立法措置に関して、GHQは当初違反者に懲役五年〜一〇年程度を課す草案を作成して内務省に提示していたようである。いかに地域社会の民主化に向けて徹底的な対策を講じようとしていたかがうかがえる。