民生委員の活動

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戦後の混乱の中、地域生活を支える活動として重要であったのは、困窮者や高齢者、子ども等への生活支援である。民生委員・児童委員はこうした活動の主な担い手であり、その役割は、訪問や調査を通じて生活に困難を抱える地域住民の状況を把握し、福祉機関と連携しつつ、相談対応、助言、福祉サービスの紹介および仲介などの支援をすることである。
深刻な国民生活の窮乏を背景に昭和二一年(一九四六)に「生活保護法」が制定され、連動する形で同年に「民生委員令」が公布された。それに合わせ、東京では方面委員連合会が改組され、東京都民生委員連合会が発足した。戦前までは方面委員制度により地域の困窮者への支援が行われてきたが、生活困窮者支援だけでなく、広く人々の生活全般の見守り役としての役割が期待されたことから、名称が民生委員へ変更されたのである。また、翌二二年には「児童福祉法」が公布され、民生委員は児童委員を兼ねることとなった。
昭和二三年、港区では民生委員推薦会により、芝地区五五人、麻布地区二四人、赤坂地区二〇人の民生委員が選出された。昭和二七年からスタートした「世帯更生運動」は、東京の委員による提案がきっかけとなり、民生委員と社会福祉協議会が協働して低所得者に貸付を行う「世帯更生資金貸付」(現在の「生活福祉資金」)制度の導入へとつながっている(東京都社会福祉協議会・東京都民生児童委員連合会編 二〇二〇)。
昭和二八年、委員の自主的活動および社会福祉機関との連携を強化することを目的とし、「民生委員法」(昭和二三年施行)が一部改正された。また同年、任意団体としての港区社会福祉協議会が発足しているが、区とともに設立の中心的役割を果たしたのが、民生委員等の区民有志である。なお、法改正に伴って区の民生委員推薦会が改変され、翌二九年にあらためて八四人の委員が選出されている。
昭和四二年、東京都の民生委員は全国初の「家庭内ねたきり老人」の実態調査を実施した。その後、全日本民生委員連盟においても実態調査が行われ、高齢者のひとり暮らしや寝たきりの状態が大変厳しいことを明らかにし、「老人福祉法」の見直しの契機となった。東京都の民生委員による調査の対象は都内に居住する七〇歳以上の高齢者であり、調査を行った民生委員は三四三〇人を数え、回答者は一二万人を超えた。こうしたいわゆる「モニター活動」は、民生委員だからこそ可能な「見えづらい地域課題を可視化する」取組を展開するものであり、その後も時代に合わせて調査課題を変えながら行われてきた。
昭和四〇年代に入ると、高度経済成長から取り残された地域住民の抱える問題が多様化してきたことから、東京都民生委員連合会は児童、障害、低所得(生活)、老人(高齢)の四分野の部会と婦人部会を設置した。後に主任児童委員部会が加わり、婦人部会は子育て支援部会に改組されている。
昭和四六年の区報(「区のお知らせ みなと」昭和四六年一二月二五日号)に掲載された民生委員へのインタビュー記事によれば、「日々の活動で重要なのは、対象者の事情・特性・ニーズに合わせてあくまでも個別に対応することであり、類似ケースを安易に適用して解決しようとしてはならない」と、一五年以上の委員経験をもとに述べられている。地道かつきめ細かな対応が民生委員制度を支えてきたことを理解できる記事である。
昭和五〇年代以降、女性委員の比率が男性を上回り、地域に根差した主婦層が委員として活躍することで、相談・支援の件数が増加していった。しかし平成に入ると、専門相談支援機関の発達と住民関係の希薄化の中で相談・支援件数は減少し、行事や会議、地域福祉活動、研修等の「その他の活動件数」が増大し、活動の質が大きく変化していく。
昭和後期から平成にかけて、社会保障制度の見直しや構造改革が行われ、身近な地域に福祉に関する各種相談窓口が拡充されると、委員の活動としては相談内容に応じて適切な関係機関に「つなぐ」役割が増えてきた。一方で、少子高齢化やつながりの希薄化に伴う孤立の問題をはじめ、制度のはざまで気づきにくい問題も顕著になってくる。行政サービスだけでは補いきれない地域のつながりをつくるために、地域の実情に合わせたサロンなどの居場所づくりや住民同士が関わる活動、関係機関と連携した取組が活発になっていく(東京都社会福祉協議会・東京都民生児童委員連合会編 二〇二〇)。港区では平成一二年(二〇〇〇)に、民生・児童委員婦人協議会の独自の取組として子育て支援事業「たんぽぽクラブ」を開始した。これは〇歳から四歳くらいまでの乳幼児と保護者のための交流の場(無料)であり、地域の民生・児童委員に育児に関する相談をすることもできる。
その後、平成二八年には地区民生委員・児童委員協議会の再編が進み、現在では五つの地区(芝地区・麻布地区・赤坂青山地区・高輪地区・芝浦港南地区)ごとに地区民生委員・児童委員協議会で活動しているほか、地区を跨いだ活動として六分野(子育て支援、児童福祉、障害福祉、生活福祉、高齢福祉、主任児童委員)の専門部会を設置して活動している。