地区ごとの特性を活かしたコミュニティ形成

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港区は、区政六〇周年となる平成一八年(二〇〇六)以降、区役所・支所改革に取り組んできた。その基本姿勢は①地域の個性の尊重、②区民参画による施策づくり、③多様な主体との協働の推進という三点であり、これらが基本計画・実施計画へ反映されてきた。この改革の背景の一つとして、大規模集合住宅の開発を主要因とする人口の都心回帰と、それに伴う住民層および行政ニーズのさらなる多様化を挙げることができる。一方、増加かつ多様化する住民に対して、町会・自治会等の既存地域組織のみで対応することには限界があり、地区ごとに特性が分かれる様々なニーズに応えつつ、コミュニティをあらためて形成していく必要があった。
平成一八年、区では芝、麻布、赤坂、高輪、芝浦港南の五地区において従来の支所を「総合支所」として位置付け直し、区民が生活地区できめ細かな行政サービスを受けられるよう機能を強化した。また、各地区の総合支所はコミュニティ形成の拠点となり、区民・ボランティア団体・NPO・企業と協働して地区固有の課題を解決するための体制が整備された。各地区には区民参画組織が設置され、組織ごとに当該地区の特性に合わせた様々な専門分科会が設定された上で、活発な活動が行われてきた。組織のメンバーは定期的に(麻布地区のみ随時)募集され、当該地区の課題解決や地域振興へ積極的に参画したい在住・在勤・在学者が応募する。定期的な活動・会合は平日の夜に行われることが多く、その他土日祝日にイベントを開催する場合もある。
多くの区民参画組織に共通して見られる活動として、当該地区の地域情報誌の編集・発行がある。この地域情報誌は組織メンバーならではの視点から地区の魅力や情報を発信するものとなっており、地区内の全戸へ配布されている。その他、区民参画組織(専門分科会)を中心とする活動の例としては、地区の歴史・文化・自然等の魅力を発信するためのまち歩きツアー(芝地区)、緑を通じた地域コミュニティの形成と緑化普及意識の向上を図る取組(高輪地区)、高齢者のいきがいづくりを目的とした交流の場の企画・運営(赤坂地区)などがある。
また、平成二一年から、区の基本計画は分野別のほか、五つの地区ごとに策定された「地区版計画書」として示されるようになったが、その計画書の策定・改定に当たっては、各地区の区民参画組織が自地区の状況や課題、望ましい将来像について議論し、計画書の内容について区へ提言をする。そして、区は提言された内容をできる限り反映する形で計画書の策定・改定を進めてきた。なお、分野別の基本計画の策定・改定については、公募区民による「みなとタウンフォーラム」が開催され、分野ごとの分科会がそれぞれ議論・提言を行っている。
このほか、各地区の総合支所を拠点とする様々な協働事業(地域事業)も展開されてきた。例えば赤坂地区では、平成一八年、社会貢献に積極的な地区内の企業・教育機関等を「赤坂・青山会議」という名称でネットワーク化し、防災・環境美化等の地域課題について総合的な協働の仕組みをつくり、解決に向け取り組んでいる。麻布地区では、平成二七年度から「今の時代に合った新しい地域づくりを考えること」「次世代のまちの担い手を発掘・育成すること」を目的に地域コミュニティ活性化事業である「ミナヨク」を実施している。これは「麻布地区をよくするために、地域でできること」を考え、アイデアをまちに結びつけていく活動とされており、同じ思いをもつ仲間と五感を使って「麻布」のまちを知り、自由にアイデアを出し合い、それを実践していくプログラムである。また芝浦港南地区では、地区がもつ特徴である海辺と運河の環境改善や魅力発信をする活動を、区民・企業・大学等との協働により進めてきた。海辺については、海水浴イベント「お台場プラージュ」など、東京二〇二〇オリンピック・パラリンピックの会場にもなったお台場を遊泳可能な場として残すための取組が、また運河に関しては、東京海洋大学の学生が講師役となり、講義やフィールドワークを通じて、地区の中学生に運河の現状・課題・魅力などを学習してもらう取組が、それぞれ実践されている。
なお、区は地域における協働の拠点となる「区民協働スペース」を順次開設し、令和三年(二〇二一)四月現在一四(芝、新橋、芝公園、愛宕、東麻布、麻布、六本木、赤坂、高輪、高輪台、白金台、芝浦、品川駅港南口、港南)の区民協働スペースを設置している。これらを利用できるのは、区と協働して行う地域課題解決のための活動や公共的もしくは公益的な活動を行う団体であり、会議室を基本に、施設によってはロビースペースや印刷機等も備え、無料で利用することができる。