〔刊行のことば〕

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港区史編さん委員長 井奥成彦
平成二八年度より取り組んでまいりました『港区史』編さん事業も、いよいよゴールが近くなってまいりました。港区では既に七巻を刊行いたしておりますが、このたび第六巻「通史編 現代(上)」、第七巻「通史編 現代(中)」、第八巻「通史編 現代(下)」の三巻を一気に刊行し、残すは来年度刊行予定の資料編三巻のみとなりました。
今回刊行いたしました「通史編 現代(上・中・下)」では、テーマごとに時代順に記述するスタイルをとっており、戦後の焼け野原からの復興、高度成長、バブル経済、平成不況などを経て今日に至るまでの、まさに私たちが生きている時代のことが語られています。最近の話題では、令和三年に行われた東京オリンピック・パラリンピックや、現在進行中の新型コロナウイルス感染症も取り上げられています。
上巻では、東京が二三区に編成される中での港区の誕生、戦後七〇年間の区政の推移、人口の変遷や、地名、コミュニティに関するトピックが取り上げられています。この中では、AIを活用した最近の行政サービスや、コロナ禍を機にリモートワークが広まったことによる人口の変化についての考察など最新の話題が取り上げられる一方、地名の変遷の節では新旧町名の対照表なども掲げられ、懐かしい地名を見ることができます。
中巻では港区の財政、まちづくり、環境、防災、産業の変遷を内容としています。この中では東京タワー誕生の話や、昭和三九年のオリンピックの開催へ向けてのまちづくりの話も含め、絶えず変化を続ける港区のまちの姿が描かれます。近年では中高層の共同住宅(いわゆるタワーマンション)の増加に伴い、日本全体の人口減少とは裏腹に港区では人口が増加に転じていることも触れられています。ただ、開発一辺倒ではない、地球温暖化に対する港区なりの対策や自然環境保全の取組も紹介されています。このあたりについては、先に刊行された第一一巻「自然編」をも参照していただければ、より理解を深めていただけるものと思います。港区の産業に関しては、従来からの商業・サービス業の圧倒的な比率の中で、近年では情報産業や専門・技術サービス業の伸びが目覚ましいことが指摘されています。また、防災に関連して、東日本大震災被災地への職員派遣の詳細な一覧表が巻末資料として掲げられています。
下巻では労働、衛生、福祉、教育、文化の側面に関する記述がなされ、保健所の歴史や新型コロナウイルス感染症への港区の対応などの記述は今、特に読者の皆さんの関心を呼ぶところかと思います。また福祉は、あらゆる人間が生きていく上で重要な要素ですが、一方で、行政側で福祉を充実させようとすればするほど予算面などで問題が生じてくるという側面もあります。これからの福祉はどうあるべきか、読者の皆さんも本巻とともに考えていただきたいと思います。教育に関しては、第一四章で戦後港区の学校教育・社会教育の歩みと今後の課題がコンパクトにまとめられています。港区教育委員会編さんの『港区教育史』通史編九巻と資料編一巻も併せてご覧ください。最後の章は港区の文化と国際性に関する章です。巻末資料にもあるように、港区には外国公館が多いという特性があり、それを生かして外国へ向けて文化発信を続ける取組が紹介されています。そして章の最後は、二度の東京オリンピックに関する記述で終わっています。
以上、冒頭でも述べましたように、「通史編 現代」三巻は私たちが生きている「今」の時代の問題を扱っています。それだけに、どの記述も身近な問題として考えていただくことができるでしょう。「今を生きる」そして「将来を考える」素材として三巻をお読みいただければ幸いです。
最後になりますが、今回刊行の「通史編 現代」上・中・下三巻に関して情報や資料を提供してくださった方々、ならびに諸機関に対し、心より御礼申し上げます。区史編さんは、あと「資料編」三巻を残すばかりとなりましたが、区史編さん委員会では最後まで皆様のご期待に添えるよう努力を続けます。今後なお一層のご支援を賜りますよう、お願い申し上げます。
 令和五年三月