基本額方式の財政調整制度の始まり

53 ~ 55 / 407ページ
第八次地方制度調査会の答申においては「都から特別区への事務移譲に伴い、特別区の処理する事務は大幅に増大することになるので、これに見合う財源を特別区に与える必要があるが、特別区の間には税源の偏在がある反面特別区の存する区域においては統一ある事務の処理を確保する必要があることにかんがみ、都に対して納付金を納付する特別区が生じないようにする方向で、市町村税の税目のうち適当な税目を特別区税とするとともに地方交付税の方式に準じて特別区に財源を交付するものとする」と言及があり、納付金の問題点が指摘された。
また、東京都に設置された都政調査会でも、行政の能率化、適正化を図る観点から都区間の事務配分の必要性が勧告された。これらをもとに昭和三九年(一九六四)の地方自治法改正がなされていくのは二章にあるとおりであるが、その改正は都区財政調整制度の面においても大きな変化をもたらすものとなった。
昭和三九年の地方自治法の改正を機に新しい方式の財政調整制度がつくられることとなった。その背景には二章で記述があるとおり、東京都の「身軽論」を背景とし、自治権の拡充というよりも人口が集積していく東京問題に対応したものだった。
新しい方式は基本額方式と呼ばれるものであった。平衡交付金は、各特別区の交付金の総額、納付金の総額は、財源超過や財源不足を積み上げた合計額を基礎として定められていたが、その方式では、実際のところ都の財政事情によって左右され、最終的には政治的解決が必要とならざるを得ないものであった。基本額方式では、交付金の総額を一般会計からではなく、都税として徴収した一般の市町村税の一定割合の額と、基準財政収入額が基準財政需要額を上回った区から納付される納付金を加えた額とした。それによって特別区の財源をあらかじめ確保することで、都区間での議論の紛糾を防ぐものであった。
交付金総額に充てられた主だったものは固定資産税と都民税法人分(市町村民税相当分)の一定割合で、それを原資に都区間で調整することとなった。なお、その割合を調整率と呼んだ。また、会計上その財源を明確なものとするため、特別区財政調整会計が設けられた。この特別会計の中で交付金の整理が行われることで一定程度予見可能で安定化する制度になった。すなわち、都税の一部として納められた税について都と区間での配分割合を決定し、財源不足の特別区はその範囲の中で交付金を得るという仕組みとなった。
一方で、人件費算定方式と建設的経費における一件算定方式は維持された。さらに第八次地方制度調査会からも問題として指摘された納付金制度は引き続き併用された。港区はこの制度の始まった昭和四〇年度から次の大きな制度変更がなされる前年の同四八年度まで納付区であった。
また、昭和三九年度までは基準財政需要額の算定において、税収見込額が95%であったのが90%に変更がなされ、その分自由財源が増えることとなった。しかしながら、この点はについては地方交付税交付金制度では75%であり、一件算定等も残っているなど、特別区は他の市町村と比していまだ都の内部団体として制限されるという性格を示すものでもあった。
加えて、財政調整の対象とされず、批判の大きかった都からの執行委任事務に要する経費の大部分は財政調整の対象とされるようになり、その経費は財政需要額として見込まれるか、または都支出金として交付されることとなった。この際に交付金の種類は、交付金総額の中で普通交付金と特別交付金の二種類に分けられた。普通交付金は基準財政収入額と基準財政需要額の差に応じて財源不足のある区(交付区)に対して配分されるが、特別交付金は災害時の対応や特別な財政収入が減少したときなどに個別区の事情を考慮して交付されるものとして位置付けられた。なお、普通交付金と特別交付金の割合は九八対二となった。