昭和四〇年代、都市への人口集中と地価の高騰により、中高層ビル建設が増加し、建築主と近隣との間で起こる日照権、電波障害などの相隣問題が急増した。港区の昭和五〇年度(一九七五年度)の相隣問題陳情件数は二一九件であった。昭和四八年度の七八件、同四九年度の七六件を大幅に上回った。建築確認の申請件数が昭和四八年度は一一〇四件、同四九年度は七六五件、同五〇年度は八七七件であるため、建築自体は増加していないにもかかわらず、紛争が増加したことがわかる。陳情の中心は、被害を受ける住民側の日照を中心とする苦情、不満、要望であり、住宅地、商業地の区別なく増加した。
国では、増加する日照紛争に対応するため、昭和四五年に「建築基準法」を改正し、北側斜線制限および第一種住居専用地域の10mの絶対高さ制限を設けた。東京都では、昭和四八年一一月、この建築基準法の改正に伴い、用途地域を細分化し、用途の異なる建物の混在を防ぎ、それぞれの地域に応じて建蔽(けんぺい)率、容積率を定め、建物の形態上の制限をするなど、生活環境の保護に重点を置いた変更を行った。この中では、補足的地域地区として、日照、通風、採光条件を保護し、隣接する高層建物から受ける圧迫感を和らげるなど、住環境保護のため、「高度地区」を指定した。港区では、この用途地域の細分化の際、港区地域地区改定審議会が中心となり、区民参画のもとで試案を作成し、東京都へ提出した。その後、東京都都市計画審議会での承認を得て決定した。昭和四九年七月に、建築主が建築計画を速やかに近隣住民へ知らせるよう求めた「事前公開制度」と、弁護士など第三者による調整を定めた「相隣調整員制度」の二本を柱とした「港区中高層建築物の建設に関する指導要綱」を制定した。同様の要綱は港区のほか、一二区が制定していた。
しかし、これらの規制導入後も日照紛争は増加し、住宅地における中高層建築物の建設に伴う日照問題を法律の規制によって予防する必要性が出てきたため、昭和五一年に建築基準法を改正、同五二年一一月、日影規制を施行した。改正された建築基準法では、日影規制の対象区域と規制の基準については自治体が条例で定めることとなった。
東京都では、この建築基準法の改正による日影規制区域を指定するため、昭和五三年に「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」を制定するとともに、「東京都中高層建築物の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」を制定した。港区では、昭和五四年に既に要綱で行っていた建築紛争の調整を条例化し、「港区中高層建築物等の建築に係る紛争の予防と調整に関する条例」を制定した。この条例は建築紛争を予防し、良好な近隣関係の保持と地域の健全な生活環境を維持向上させることを目的とし、建築計画の事前公表と紛争のあっせん調停について必要な事項を定めた。こうした対応が必要となるのは中高層建築物の建築であり、中高層建築物とは、当時の第一種住居専用地域では、軒の高さが7mを超える建築物または地階を除く階数が三以上、言い換えると地上三階建て以上の建築物、その他の地域では、地盤面からの高さが10mを超える建築物を指した。これらを建築する際に、建築計画を知らせる標識の設置や設置後、隣接関係住民説明会開催が必須となった。
このように、紛争の予防を図るなどの取組を行ってきたが、日照権をめぐる紛争は、昭和五五年以降も続き、住宅だけでなく、学校の校庭や幼稚園の園庭へビルの影で日照権が奪われるとしてビルの建設差し止めを求める訴えを起こしたものなどの紛争も各地で起こっていた。
港区は、昭和五九年、三階建て以上、ワンルーム形式の住戸が一〇戸以上あるワンルームマンションの建設の際に、従来の日照をめぐる紛争や工事の騒音問題に加え、管理人不在、ゴミやプライバシーなどの生活様態の心配から生じる近隣住民との紛争を予防するために、「港区ワンルーム形式集合建築物の建築指針」を施行した。この指針では、建設の際の事前協議や説明会の開催、マンションの管理体制の整備、住民の登録などを指針として定めた。
平成元年(一九八九)、建築物による日影の区域や時間を定めた「東京都日影による中高層建築物の高さの制限に関する条例」を改正した。この改正では、港区や足立区の一部などの計約1780haが条例の規制対象から除外され、周辺への日影を考慮することなく建てられるようになった。具体的には、条例での日影規制の対象外区域は7万3690haだが、用途地域の見直しで、さらに約1090haが条例の規制を受けない商業地域になり、同じ地域内にあっても高さ制限のランクが変わるなどして、規制対象から除外されることになった。また、条例の改正によって、容積率が400%で、高さ10mを超える部分について条例の制限を受けていた港区六本木通りや足立区の環状七号線沿線部分など計約580ha、市街地再開発事業区域となっている亀戸、大島、小松川の高度利用地区約100haの区域が規制の対象外になった。