平成期に入ると、社会を取り囲むハザードも多様化し、火災や自然災害以外の危機に対応する危機管理行政の重要性が認識されるようになってきた。NBC災害(核=nuclear、生物=biological、化学物質=chemicalによる特殊災害)や、CBRNE災害(化学=chemical、生物=biological、放射性物質=radiological、核=nuclear、爆発物=explosiveによる特殊災害)といった用語も使われるようになった。世界的に、特殊災害への対応体制の強化が認識されるようになったのは、平成七年(一九九五)の地下鉄サリン事件であると言われている。その後、わが国では、平成一一年の東海村JCO臨界事故で放射性物質による災害や平成二三年の福島第一原子力発電所事故による原子力災害等を経験することとなった。
危機管理行政は、国レベルでは主に内閣府が管轄している。また東京都では、危機管理行政は防災行政と同様に総合防災部が管轄している。平成一五年四月に、それまでの災害対策部を総合防災部に改め設置された部署である。東京都議会の平成一六年総務委員会では、総合防災部長が、「都では新たな危機に対応すべく、お話のありましたように、平成一五年度に危機管理監を設置しますとともに、それまでの災害対策部を総合防災部に改組、拡充をいたしました。また、危機管理監が議長になりまして、各局の部長級で構成をいたします危機管理対策会議を設置しまして、自然災害、重大事故、重大事件等の全庁的な課題に対して速やかに対処する仕組みを構築しております。こうした体制のもとで、これまでNBC災害図上訓練の実施及びNBC災害対処マニュアルの策定、SARSや鳥インフルエンザ対策の実施などの対策に取り組んでおります」と答弁している。
港区の危機管理行政は、平成一五年に危機管理担当を総務課に配置したことから本格化する。平成二二年から防災・生活安全支援部が防災危機管理室へと改組され、防災行政と共に危機管理行政も所管し、港区の危機管理体制はさらに強化された。このように、危機管理行政は体制整備が進められ始めてから比較的歴史が浅い行政分野であるが、区の取組は目覚ましい(具体的な取組については前項参照)。
港区では、安全で安心して暮らせる社会に対する要望が強く、昼間人口の多い都心区ならではの防災や生活安全等において、町会・自治会のみならず、企業・各種団体等を巻き込んだ取組を各種行っている。また、都市型犯罪などの備えや危機管理の取組など、「安全で安心なまち」を実現するため「都心の危機管理」を課題とした、犯罪に強いまちづくりへの取組や、町会・自治会などが設置する防犯カメラの整備や維持管理支援、夜間・通学路パトロールなど、区役所・支所改革による、各地区総合支所の地域の安全と課題解決等に向けた取組や、企業が多く昼間人口が多いという港区の特徴を踏まえた民間企業との連携等を推進している。