シティハイツ竹芝エレベーター事故について

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平成一八年六月三日に発生した、シティハイツ竹芝でのエレベーター事故は、港区の施設で起きた最も深刻な案件であった。平成一八年六月三日土曜日、午後七時二〇分頃、特定公共賃貸住宅シティハイツ竹芝で、当時一六歳の区民の尊い命が失われた。高校生がエレベーターから降りようとしたところ、エレベーターが突然上昇し、かごの床面と乗降口の枠の上部との間に挟まれて亡くなったのである。平成二〇年には、遺族から区・港区住宅公社・シンドラー社(エレベータ保守管理)・SEC社(同)・日本電力サービス社(同)に対し損害賠償請求訴訟が起こされた。刑事訴訟第二審の判決は、直接の事故原因を「五号機のソレノイドのコイルに層間短絡が生じ、ソレノイドの推力が低下したことなどで、ブレーキアームが十分に開かなくなり、回転するブレーキドラムとライニングが摩耗するという現象が発生して進行したため、プランジャーストロークが限界値に達し、ブレーキの保持力が失われたことにあることが認められる」とした。
港区議会では、平成一八年六月二三日の第二回定例会で、事故原因の究明と今後の事故の再発防止等の諸対策について調査・研究を行うため、特別委員会を設置する発案が、満場一致で可決され、議員八人によるエレベーター事故等対策特別委員会が設置された。
また港区でもこの事故の重大性を受け止め、同年六月九日に、助役を委員長とする「港区シティハイツ竹芝事故調査委員会」を設置し、区独自に事故の原因究明と再発防止を目的とした調査・検討を開始した。事故調査委員会では、事故の原因究明に必要なエレベーター保守会社の作業報告書や管理会社の業務日報などの主要資料、事故機のブレーキ装置・制御盤等の主要部品が捜査機関に押収されたままの状況の中、平成一八年八月、事故発生時の初期対応・日常管理の問題点など、検討すべき項目および方向性について中間報告書(第一次)として公表した。平成一九年三月には、中間報告書(第二次)において、区政運営の基本方針として「区民の安全・安心の確保を最優先とすること」「専門家による指導・助言を継続すること」「安全点検の実施と速やかな改善措置を行うこと」を示し、さらに「遠隔監視装置の導入」「点検保守委託の特命随意契約等契約方法の再検討」「点検保守委託の仕様書の見直し」「不具合情報等の記録の永年保存」等を提言としてまとめ、併せて区から国へ「リコール制度の創設」など安全対策の要請を取りまとめた。さらに、区では隣接する同型エレベーターによる再現実験等を行い、実験等の結果と併せ、「職員等への安全管理講習会の実施」「全区有施設の安全総点検の実施」「点検・保守業務のメーカー系事業者への変更」「点検・保守業務の仕様書の改訂」「契約のあり方をPOG契約とすること」、港区および港区議会が国に対して「エレベーターの安全に対する要請」を行ったことなどについて中間報告書(第三次)を取りまとめ、平成二一年一月に公表した。しかし、検証に必要な主要資料や部品は捜査機関に押収されたままとなっていたため、平成二二年一〇月二六日の本委員会以降は、調査・検討作業を休止せざる得ない状況であった。平成二七年二月一九日、エレベーター保守会社役員・社員を被告人とする刑事訴訟の第一審が結審したことに伴い、捜査機関に押収されていた資料と部品の一部が区に還付された。資料の還付に伴い本委員会では、平成二七年一〇月から調査・検討作業を再開し、中間報告書(第一次)において、「押収資料の還付を待って、その内容を調査する」としていた項目を中心に検証を行い、平成二九年三月に中間報告書(第四次)を公表した。第一次から第四次までの中間報告書において、事故機隣接機を用いた再現実験や作業報告書等の文書資料を精査した調査は完了したが、事故機部品と関係者への聴取を必要とする調査は、すべての事故機部品の還付や裁判による係争関係の終結を待って行うこととして保留した。平成三〇年三月に、刑事訴訟が終結したことに伴い、捜査機関からソレノイドやブレーキパッドなど重要部品を含むすべての事故機部品が還付された。また、令和元年(二〇一九)一二月一一日に、エレベーター製造会社等を相手とした区原告訴訟が和解により終結したため、本件事故に関わる裁判がすべて終結し、当事者間の係争関係も解消された。
港区シティハイツ竹芝事故調査委員会では、事故発生前の保守点検・施設管理の問題点としては、以下の八点を挙げるとともに、その後の区の安全対策を示した。第一に、港区住宅公社による作業報告書等の確認方法に問題があった。これに関しては、その後保守業者の報告書を確認し、安全性の把握を徹底する方向に変えられた。第二に、修繕等に伴い、製造業者からの部品調達が円滑に行われていなかった疑いがあった。この点に関しては、その後に製造業者系メーカーに保守委託を契約し、安全性を確保する方向に変えられた。第三に、点検項目が適切であったかが不明であった。この点に関しては、点検項目・周期等を定め、適切な維持管理が行われるよう周知を行うようになった。第四に点検が適切に行われていなかった疑いがあった。この点に関しては、保守点検記録等を施設管理者が確認し、点検状況を把握する方向に改められた。第五に適切な修理を行っていなかった疑いがあった。この点に関し、国土交通省「昇降機の適切な維持管理に関する指針」(以下「国指針」と表記)では、保守業者を選定する際、国指針のチェックリストを参考にし、対応することを定めている。区は、国指針に基づく対応を徹底した。第六に、保守業者と製造業者が合同で点検を行ったが、保守内容が適切であったか不明であった。この点に関しては、国指針には、製造業者は所有者に必要な情報または機材を提供または公開し、問い合わせ等に対応する体制を整備することとされている。区は国指針に基づく対応を徹底することとした。第七に、港区住宅公社が防災センターから不具合の報告を受けた際の対応状況に課題があった。この点に関しては、職員等に各種研修を実施し、安全に対する意識向上・知識付与をその後行っている。さらに第八に、独立系保守業者にも入札参加資格を拡大した際、仕様書において履行能力を確認する必要があった。この点に関しては、国指針では、保守業者の選定にあたって保守業者の技術力等の評価を行うこととされている。区は、事故後、エレベーターの仕様を熟知する製造業者系保守業者に保守委託する契約方法に変更している。
また、事故原因の究明、再発防止策以外の対応としては、平成一八年六月五日に区議会の建設常任委員会で、議会に対し初めて事故報告を行ったのを契機に、その後も、シティハイツ竹芝で発生したエレベーター事故を教訓として、二度と同じような悲劇を起こさないように施設の安全総点検等の事故再発防止対策に取り組んできた。具体的には平成一九年度には、将来ある尊い命が失われた事故を風化させることなく、すべての区有施設における区民・利用者の安全安心を確保するための取組を、緊急かつ重点的に推進するため、「港区安全安心施設対策基金」の創設を行った。区有施設安全総点検の実施、区有施設安全管理講習会やエレベーターに関する安全セミナーも随時実施した。
平成二五年度予算では、安全安心施設対策基金を活用し、シンドラー社製のエレベーター九台を含む二四台のエレベーターを改修し、区有施設から、シンドラー社製のエレベーターをすべて撤去した。また、戸開走行保護装置の後付けが可能となったエレベーター三一台に同装置を設置し、シティハイツ竹芝の事故を二度と繰り返さないよう、区有施設において徹底した安全対策を講じた。さらに平成二八年には、エレベーター事故後に入区した職員対象に「シティハイツ竹芝エレベーター事故研修」を実施し、また同年四月に建築課が戸開走行保護装置の設置に対する区独自の助成を開始した。平成二九年に、エレベーター事故の遺族が起こしていた損害賠償請求訴訟について和解が成立した。平成三〇年には、エレベーター事故が発生した六月三日を「港区安全の日」に制定し、新入職員を対象にエレベーター事故の遺族を講師とした「区有施設の安全について考える研修」を実施している。  (永田尚三)