〔第三項 港区の産業の概観〕

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港区の産業全体の動きを見ると、戦後から卸・小売業の割合が高かったが、一九八〇年代からサービス業の比率が上昇し、30%を超えるようになった。一九九〇年代以降も、サービス業の割合は増加した。その結果、二〇一〇年代には、学術研究、専門・技術サービスなど様々なサービス業を合わせると40%を占めるになった。他方で、製造業は一九八〇年代から一九九〇年代、二〇〇〇年代で徐々に減少した。情報通信業は二〇〇〇年代から比率が増加し、二〇一〇年代には10%を超えるようになった(図10-1-3-1①および②)。
港区の産業の地理的特徴としては、大別すると海岸に接した平地と台地に分かれる。新橋駅から品川駅に至る平地は、京浜工業地帯の一翼として、工業地帯および準工業地帯があった。他方で、古川沿岸の低地には、下請を主とした中小工場が密集していた。台地は住宅地帯を形作っている。海岸地域は、高度成長期までは漁業地帯であったが、工場汚水、埋立などの東京港の発達による漁場の減少などを受け、徐々に衰退していった。二〇〇〇年代の港区は、歴史ある大学やマスコミ機関の立地、一〇〇万人近い昼間人口、二四時間活動の都市という特徴を持ち、職・住・遊・学が共存した魅力的な街になっている。
各産業の動きを概観すると、工業では、一九五〇年代までは、電気機械工業が最も事業所数の比率が高かったが、六〇年代あたりから出版•印刷業の比重が高くなった。港区では軽工業が多く、出版・印刷業のほか、家具、装飾品類がその中心であり港区の伝統でもある。古川沿岸には小規模工場が密集していたが、高速道路建設や人口増加など街の様相が変化したこと、公害等の工場の諸規制による影響、六〇年代初頭の高度成長期における地価高騰などの影響を受け工場数が減少した。出版・印刷業・同関連産業は、経営者の高齢化、技術革新への遅れなどにより、九〇年代後半から出荷額が減少している。
商業では、新橋、田村町(現在の西新橋)一帯が商業地区であり、ここを中心に浜松町、三田、麻布十番、さらに六本木、青山へと広がっていった。一九六〇年代になると、高速道路の建設と幹線道路の拡張によって商業地区の様相は変わっていった。特に青山地区は昭和三九年(一九六四)の東京オリンピック・パラリンピックを契機に、道路を拡幅して新しいショッピング街となった。商業地区の中でも、赤坂溜池付近は自動車関連、芝地区は機械器具販売が中心であった。一九六〇年代、卸売は商業の25%程度を占め比率が高く、小売業のなかでは、食料品小売業の比率が最も高く、織物、衣服と続いた。また、昼間人口の増加に伴って一九六〇年代後半頃から飲食店が増加した。商店街は人口の流動と消費水準の高度化に伴って新興業種やスーパーの進出などにより変化していった。港区では、明治以来、家具、建具、計器、衣服装身具類の販売が盛んであったが、こうした業種を含め小売業者は小規模経営であったため、一九七〇年代には合理化や経営の近代化、労働者の確保が必要となり、区が支援を行った。一九八〇年代になると、商業(商店)における卸売、小売、飲食業の占める割合は、それぞれ三分の一となった。一九九〇年代から二〇〇〇年代の商業は、イメージや集客力の高い港区の特性を反映し、赤坂、麻布、六本木、新橋、台場といった地区においては、国内でも屈指の商業集積が形成され、インターネット等を活用した情報発信力の高い店舗が立地した。商業の個々の傾向としては、平成一一年(一九九九)から同一七年にかけて卸売業が減少し、東京都や特別区全体の傾向より減少幅が大きかった。これに対し、小売業は東京都や特別区全体の傾向より、年間販売額が増加した。小売業の一店舗当たりの売り場面積が東京都や特別区全体の傾向より狭い。こうした小規模小売店舗の割合が、港区の商業全体の90%以上である(港区産業・地域振興支援部産業振興課 二〇〇九)。
サービス業、情報産業は一九七〇年代から成長していたが、一九八〇年代以降の発展は目覚ましいものがあった。一九八〇年代から九〇年代の一〇年間で事業所数が20%増加した。二〇〇〇年代、サービス業の港区の産業に占める構成比は約30%と最も大きくなり、事業所数・従業員数ともに増加した。特に、放送・情報サービスやデザイン業、弁護士・会計士など専門的な技術やノウハウ、資格や知識、感性を生かした専門サービス業の集積が見られ、二三区平均より高くなっている。中でもテレビ番組や映画・音楽などを制作するいわゆるプロダクション機能が多数集積していることは、民放キー局が集まる港区ならではの特徴ともいえる。
観光関連産業については、港区には、史跡や文化財のほか、アミューズメント施設、美術館、庭園、テレビ局、大型劇場などの都市の特徴を踏まえた観光資源が豊富である。二〇〇〇年代には、一〇〇を超えるホテルや、全国的に注目されるファッション関連の専門店や飲食店が集積するなど、観光関連産業が充実していた。  (三田妃路佳)

図 10-1-3-1① 区内産業大分類別事業所数構成比

「港区行政資料集」昭和55年度版および総務省「事業所・企業統計調査」から作成。1%未満の産業は「その他」にまとめた

図 10-1-3-1② 区内産業大分類別事業所数構成比

総務省「事業所・企業統計調査」、同「平成26、令和元年経済センサス(基礎調査)」から作成。1%未満の産業は「その他」にまとめた。平成14・19年に産業項目の改定がなされている