〔第二項 中小企業の保護・育成〕

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昭和五六年の事業所統計調査によると、港区には、約四万二〇〇〇の事業所が存在するが、そのうち99%以上が中小企業の事業所であった。そこで働く従業員は四五万人近くで、区内従業員数の約三分の二を占めていた。これらの中小企業の多くは,地域に密着し、地域の経済を支えているとともに、消費財やサービスの提供を通じて、区民生活の向上に大きな役割を果たしていた。しかし、中小企業は、経済のなかで知識、情報、技術、企画、デザイン等の業務が大きな役割を占める経済のソフト化、技術革新、情報化の進展のほか、昭和六〇~六二年の地価高騰、業務立地化の進行、定住人口の減少などによって、経営を取りまく環境の変化に直面していた。さらに、昭和六〇年度後半からの急激な円高は、輸出関連企業を中心として大きな打撃を与え、それに伴って製造業をはじめとして、その影響は深刻なものであった。加えて、既に述べたが、オイルショックの影響による経済活動の悪化や異常な物価高も経営に影響した。
そこで港区では、経営の安定や近代化の支援、経営環境の整備、勤労者の福利厚生という点から区内中小企業の振興を図った。
具体的には、第一に経営の安定については、中小企業融資の拡充、区内中小企業に就職した中・高卒者を歓迎、激励し、雇用の促進を図ることを目的に行われる地方新規学卒就職者歓迎会などの中小企業従業員雇用促進対策の推進、中小商工業永年勤続優良従業員表彰などの中小企業従業員定着化対策の推進、下請企業あっせん相談を行った。第二に、経営の近代化については、金融・経営相談を通して、区内中小企業の経営改善、経営近代化の促進を図る中小企業経営相談(商工相談)の充実、企業診断・商店街等の診断の充実、経営講習会(セミナー)の充実、組織化(共同化)の推進を行った。第三に、経営環境の整備については、景況調査や、優良商店街視察といった経営情報サービスの充実、商店街整備促進対策の推進、観光事業の振興、商工会館の建設、商工団体の育成・指導、業種別団体の育成指導を実施した。加えて、勤労者の福利厚生としては、勤労者厚生施設の整備などを実施した。
中でも中小企業融資は、事業経営上必要な資金を区が利子の一部を負担することで、低利で融資が受けられるよう金融機関にあっせんし、区内中小企業の経営の安定、改善を図ることを目的とした。表10-4-2-1は当時の融資状況を示している(「港区の中小企業振興」昭和五八年版)。

表10-4-2-1 港区中小企業融資制度(昭和57年度実績)

「港区の中小企業振興」昭和58年版から転載


経営の近代化の中でも、商工相談、企業診断、商店街等の診断実績は、以下の状況であった。相談や診断は中小企業診断士によって応じられた。商工相談については、図10-4-2-1のように年々減少し、経営相談については五年で利用者がほとんどいなくなった。企業診断は、商業診断と工業診断とがあるが、五年間で多くても一八件という状況であった。商店街の商業環境、背景を総合的に把握し、問題点を指摘するとともに、ふれあいの場、憩いの場としての活性化の指針を与えることを目的とした商店街診断は、昭和六〇年は制度としては存在するが利用実績がなかった。
また、従業員の雇用促進や定着安定化のための施策として、前述の地方新規学卒就職者歓迎会や優良従業員表彰、生活資金融資、従業員レクリエーションおよび各種の講習会を実施した。さらに、中小企業の勤労者の文化、教養および福祉の増進を図るため「勤労青少年ホール」「勤労福祉会館」の施設を設置、運営した。また商工団体、業種別団体等の相互交流、コミュニティの場、また情報収集、販路拡張に役立つ施設として、昭和五八年六月七日に港区立商工会館を東京都貿易産業会館の六階に開館した。

図10-4-2-1 商工相談件数の推移

「港区の中小企業振興」昭和58年版、「事業概要」(港区区民部商工課)昭和61年度版から作成。金融相談は左軸、経営相談・その他は右軸

図10-4-2-2 企業診断件数の推移

「港区の中小企業振興」昭和58年版、「事業概要」(港区区民部商工課)昭和61年度版から作成

表10-4-2-2 商店街診断の実績

「事業概要」(港区区民部商工課)昭和61年度版から作成