図10-5-2-1 港区地価の推移
東京都財務局ホームページ「基準地調査 区市町村別用途別 平均価格の推移」から作成
上記の課題に応えるため、港区では、定住人口が減少する中で日常生活を支える地域の商店や商店街を育成・確保していくことが、定住を推進していくうえで不可欠であるとし、住・商・工が共存するまちづくりや魅力ある地域商店街づくりの推進と職住近接の街づくりの促進に取り組んだ。具体的には、住・工が共存できる工場立地の適正化、商店街環境の整備、商店街診断、観光案内などの事業を展開した。また、地域の居住環境や自然環境などと調和した市街地整備も行った。
区内の事業所は、事業所総数約四万三四〇〇、従業者数約七四万五〇〇〇人で、そのうち中小企業は、事業所数で約99%、従業者数で約69%を占め、事業所の中心は中小企業であった(「みなと区政要覧」平成元年版)。
このことから、中小企業の安定的な発展は、区全体の発展、健全なまちづくりを進めるうえでも重要であった。
しかし、先に述べたように、業務機能の集中等による地価の高騰、定住人口の減少とともに、技術革新・情報化の進展、経済の国際化・消費者ニーズの多様化など中小企業をとりまく環境が大きく変化し、経営環境は一層厳しくなった。こうした状況で中小企業経営の安定的発展を確保するためには、企業自身の努力はもちろんであるが、区としての支援も必要となった。港区では、環境変化にも対応できるように、企業体質の改善、技術革新や迅速な情報収集、ネットワーク形成の支援を行った。また、高地価、高人件費にも対応できるように高付加価値化や事業転換などを促した。港区は、経営環境の整備、経営基盤の安定、地場産業および商工業の活性化、勤労者福利厚生の向上の四つの柱を設け、様々な施策を展開した。例えば、一つ目の経営環境の整備では、中小企業の経営の安定と向上に寄与するため、情報提供サービスの一層の充実を図り、販路拡大のための事業を推進した。二つ目の経営基盤の安定では、中小企業の経営を資金面から援助するため、融資制度の充実を図った。昭和六三年当時の融資額は表10-5-2-1のとおりである。
表10-5-2-1 中小企業融資制度利用状況(昭和63年度)
「みなと区政要覧」平成元年度版から転載、一部改変
また、商工相談窓口の運営を通じて、経営に関する指導・相談の充実を図った。さらに、企業診断を実施するとともに、経済のソフト化、国際化、技術革新の進展など経営環境の変化に対応するため、経営戦略アドバイザーを派遣した(図10-5-2-2)。具体的には、CI計画の導入を検討している企業にアドバイザーを派遣して相談に応じ、実施にあたっては「CI専門会社」を紹介するといったことを行った。昭和六三年度は、区内二万社にCIガイドを送付した結果、四〇数社から相談が寄せられ、昭和六三年度は三社、平成元年度は四社がCIを導入するという実績となった。平成二年度は、CIシンポジウム(約九〇人参加)、CI専門会社の再登録(五九社)等を行い、CIの事例を掲載したCIリポート(二〇〇〇部)を発行した。
図10-5-2-2 経営戦略アドバイザー派遣のシステム図
「港区基本計画」(昭和62年)掲載図から作成
このほか、技術革新情報化などに対応することを目指し、企業が経営の革新、新製品・新技術の開発、販路拡大などのために、保有する経営ノウハウ・技術情報を相互に交換する異業種交流を促進した。
三つ目の地場産業および商工業の活性化では、商工業の活性化のため、商工団体を育成するとともに、その組織強化を促した。また、地場産業を保護・育成するための事業を展開し、振興を図った。特に、伝統工芸品産業の育成を促し、常設および地域ミニ展示場を設置した(表10-5-2-2)。加えて、地域特性に適合した都市型産業の振興を図るため、住・商・工が共存できる環境の整備に努めた。さらに、魅力ある商店街づくりのため、商店街診断を実施し、地域特性を踏まえた商店街整備事業等を推進し、商店街の近代化を促進した。
表10-5-2-2 地場産業伝統工芸品常設展示場の運営状況
「商工課事業概要」(港区区民部商工課)平成4年度版から作成
中小企業の福利厚生は、大企業に比べて大きく立ち遅れており、また、中小企業の中でも企業規模により段階的な格差が生じていた。そのため、上記の港区による中小企業支援の四つ目として勤労者福利厚生の向上が示された。勤労者の福利厚生の充実や労働環境の改善が企業主によってでは困難な中小企業に対しては、区としても、勤労者の福祉増進を図り、勤労者福利厚生制度の拡充をはじめとする施策を展開した。具体的には、勤労者共済会の育成、従業員生活資金融資などの事業を実施するとともに、商工会館・勤労福祉会館の運営を通して、区内中小企業の振興と中小企業勤労者福利厚生の増進を図った。また、技術の急速な進歩や情報の増大に伴ってこれら知識の修得や技能研修などのニーズが高まっていたため、働く人々が生涯を通じて自己啓発を図れる場を用意した。さらに、従業員の区内定住を促進し、職住近接を推進するため、中小企業の従業員住宅の確保に向けて支援を強化した。 (三田妃路佳)