当時の完全失業率の推移を東京都と全国で比較すると、平成二二年に東京都の完全失業率は全国を上回る水準となった。平成二三年以降、完全失業率は低下しているものの、全国を上回る水準は続いた(図10-6-3-1)。港区の失業率は、平成一二年には3・6%、同一七年には3・9%、同二二年には4・0%と上昇した(政府統計「e-Stat」)。このことから、港区についても雇用面では厳しい状況になっているものと推察できる。
図10-6-3-1 東京都と全国の完全失業率の推移
東京都「東京の労働力(労働力調査結果)」から作成
また、港区の就業者数は、平成一二年から同一七年にかけて増加したが、同二二年にかけては減少した。平成一七年から同二二年にかけての減少率は東京都(99・6%)、特別区(99・2%)に対して、港区は97・8%と減少幅が大きくなった(図10-6-3-2)。
図10-6-3-2 従業地ベースの就業者数の推移
『第3次港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査業務委託 報告書』(2014)から転載、一部改変。数値の出典は総務省「国勢調査」。年齢不詳および15歳未満就業者数を含む
以上から、平成二〇年のリーマン・ショックとそれ以降の世界同時不況の影響を受けて、港区の就業者数、雇用環境は厳しい状況となったことがわかる。さらに、図10-6-3-3が示すように、その影響を受けて区民の一人当たり所得は大きく減少したことがわかる。
図10-6-3-3 1人当たり所得の推移
『第3次港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査業務委託 報告書』(2014)から作成
リ―マン・ショックの港区の産業への影響は、港区が第三次港区産業振興プランの策定に向けて、区内に所在する事業者(中小企業を中心とし、大規模企業のチェーン店等は除外)を対象としたアンケートから明確になる。このアンケートは、区の産業の実態を把握し、港区の主要産業(情報関連産業〈メディア、情報サービス、広告など〉、ビジネスサポート産業〈デザイン、法務・財務・特許など〉、地場産業〈印刷、製本など〉、コミュニティ・ビジネス関連産業〈福祉、教育、文化、環境など〉、商店街関連産業〈卸・小売、サービス、飲食など〉、観光産業、中小企業全般とアンケートでは設定)に対する振興施策・事業の検討のために実施した。
アンケートでは、産業中分類のうち、主に事業者を相手に事業を行う事業者を対象とした建設業、製造業、情報通信業、卸売業・小売業(うち卸売業)、不動産業・物品賃貸業、学術研究・専門技術サービス、サービス業(他に分類されないもの)(以下「製造業・情報通信業等事業者」とする)と、商業やサービス等の主に一般消費者を相手に事業を行う事業者を対象とした卸売業・小売業(うち小売業)、宿泊業・飲食サービス業、生活関連サービス業・娯楽業(以下「商業・サービス業等事業者」とする)に分けて実施された。製造業・情報通信業等事業者からは二一八票(回収率14・5%)の回答があり、商業・サービス業事業者からは一七四票(回収率11・6%)の回答があった。
アンケートの結果、「製造業・情報通信業等事業者」では、平成二四年度の売上高をリーマン・ショック(平成二〇年)以前と比べると、増減は、「減少」が36・8%、「横ばい」が23・1%、「増加」が22・7%であり、売上高が減少している事業者のほうが増加より多かった。
業種別にみると、業種によって影響が異なった。建設業、情報通信業では「増加」が多く(順に47・6%、47・1%)、逆に製造業、専門・技術サービス業、卸売業、不動産業では「減少」が多い(順に39・0%、37・0%、40・0%、52・1%)。特に、情報通信業では「30%以上増加」(35・3%)しており、不動産業は「30%以上減少」(26・1%)となった(図10-6-3-4)。
図10-6-3-4 業種別平成24年度売上高のリーマン・ショック以前との比較(製造業、情報通信業等)
『第3次港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査業務委託 報告書』(2014)から転載
次に、「商業・サービス業等事業者」では、平成二四年度の売上高をリーマン・ショック(平成二〇年)以前と比べると、「減少」が37・9%、「横ばい」が15・7%、「増加」が11・0%であり、売上高が減少している事業者のほうが増加より多かった。さらに、業種別にみると、いずれの業種も「減少」が多いが、特に飲食サービス業(43・6%)では「減少」が多かった(図10-6-3-5)。
図10-6-3-5 業種別平成24年度売上高のリーマン・ショック以前との比較(商業・サービス関連事業者)
『第3次港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査業務委託 報告書』(2014)から転載
以上のように、「製造業・情報通信業等事業者」も「商業・サービス業等事業者」も、リーマン・ショックを受け、売上高が減少した事業者が多かったことがわかる。ただし、製造業・情報通信業等事業者の中で、情報通信業は、売上高が増加しており、影響が少なかったことがわかる。
このようなリーマン・ショックの影響を受け、区では、不況対策としての緊急的な予算措置を行い、港区緊急支援融資の信用保証料を三分の一補助から全額補助へ引き上げるとともに、認定のための専門窓口を開設したのをはじめ、区契約時における前払い金支払い対象範囲の拡大や区内中小企業の受注拡大へ向けた小規模事業者登録制度の積極的活用、10%のプレミアム付港区内共通商品券(三億三〇〇〇万円。三〇〇〇万円分がプレミアム)の発行など、様々な支援策を実施していた(港区産業・地域振興支援部産業振興課 二〇〇九)。
しかし、こうした支援の有効性に限界があることを先のアンケート調査(平成二六年)結果は示した。同アンケート調査では、事業活動への支援ニーズについても調査している。
調査結果によると、港区の産業振興に向けた施策展開の認知度は「中小企業融資等」のみ三割を超えており、他の施策ではいずれも認知度が二割以下と低かった(図10-6-3-6)。また、港区の産業振興に向けた施策の利用は全体の二割強に留まった。施策を利用した事業者のうち、約六割が「中小企業融資等」を利用し、その他の施策の利用は各数件程度と少数であった。
さらに、事業者が港区に対して望む支援についての調査では、「融資等資金対策」「従業員の福利厚生支援」「宣伝PR支援」が比較的多かったが、特に期待をしていない側面もみえた。例えば、業種別で「小売業」では「特にない」が三割と最も多かった。麻布地区・赤坂地区・高輪地区は「資金等資金対策」を希望する事業者が三割を超えたが、芝地区・高輪地区は「特にない」が四割以上であった。
すなわち、港区として支援を打ち出しても、認知度は高いとはいえず、支援について期待する点も特にないという回答がみられ、有効性には課題があることが明らかとなった調査であった。 (三田妃路佳)
図10-6-3-6 港区の産業振興に向けた施策展開の認知度(知っているもの)(複数回答)
『第3次港区産業振興プラン策定にかかる基礎調査業務委託 報告書』(2014)から転載