〔第三項 少子高齢化の進展〕

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昭和四五年に全人口に占める六五歳以上の割合が7%を超えたことで日本は「高齢化社会」となり、その二四年後には14%に達し「高齢社会」を迎える。長寿は喜ばしいことではあるが、その一方で、高齢者は病気やケガのリスクが高まる。社会情勢が変化していく中で、区では区民の急病対策のため、昭和五三年一〇月一五日からは、休日の昼間(午前九時~午後五時)のみならず、診療時間を準夜(午後五時~午後一〇時)まで延長して、区民の休日における医療の不安の解消に努めることとなった。
政府では高齢者の増加による新たな行政需要を勘案しながら、昭和五〇年代以降、「がん検診」「アクティブ八〇ヘルスプラン」「高齢者保健福祉推進十か年戦略」「寝たきり老人ゼロ作戦」「八〇二〇運動」など、立て続けに高齢者の「健康保護」のための施策を打ち出す。日本人が健康であるために行政に求められることは、明治期以来強調されてきた感染症対策や乳幼児の「健康保護」だけではなくなった。そこで港区では平成二年四月、二一世紀初頭に向けて「やわらかな生活都心―住みつづけられるまち・港区」を将来像として掲げる新たな基本構想を策定する。
基本構想は、①人間性の尊重、②地方自治の確立、を理念とし港区のあるべき姿を次の三本の柱に示した。
Ⅰ、住みつづけられるまち
Ⅱ、健やかなくらし
Ⅲ、いきいきとしたふれあい
そしてこれを実現するべく平成一〇年度を最終年度とする港区基本計画が平成三年五月に策定される。ここでは保健衛生行政の指針が取り上げられ、「健やかなくらし」を実現するべく、「健康づくりの促進」および「健やかな環境づくりの促進」に着手することが計画された。
まず「健康づくりの促進」においては以下1~6の事柄が取り上げられる。すなわち 「1、健康づくり意識の啓発」「2、健康づくり促進体制の整備」「3、健康増進と疾病の予防」「4、疾病の早期発見・早期治療のための体制整備」「5、社会復帰促進のための援助機能の充実」「6、保健衛生施設の整備」である。「健やかな環境づくりの促進」においては「環境衛生対策の充実」が取り上げられた。そしてそれぞれの項目を実現するための方向性がより具体的に示される(図12-2-3-1)。

図12-2-3-1① 港区基本計画における保健衛生行政の指針

「港区保健衛生事業概要」平成 6 年版から作成

図12-2-3-1② 港区基本計画における保健衛生行政の指針


この基本計画は平成一〇年度を最終年度として策定されたものであったが、以後、当初の予想よりも高齢化や少子化のスピードが速かったことから、これらに対応をするべく、同七年二月に計画を改定した。同年の計画では、平成七年度を初年度として、平成七~一〇年を前期、同一一~一四年を後期とする計画となった。この基本計画を受けて平成七年三月に策定されたのが「みんなとすこやか21(健康編)」である。区民が健やかに暮らせるまち「生涯健康づくり都市」の実現に向けて平成七~一〇年を前期、同一一~一四年を後期とする地域保健医療計画である。ここでは以下の基本理念の下、港区を取り巻くいくつかの「トレンド」が確認されている。

〈基本理念〉

港区は、地域住民の健康の保持及び増進を目的として、急速な高齢化の進展、保健医療を取り巻く環境の変化に即応し、公衆衛生の向上及び増進を図る。

また、区民の多様化し、かつ、高度化する保健、衛生、生活環境等に関する需要に的確に対応するため、港区の特性及び社会福祉等の関連施策との有機的な連携に配慮しつつ、総合的に推進する。

〈港区を取り巻く七つの潮流(トレンド)〉
①人口の高齢化の急速な進行(高齢者保健対策、リハビリテーション、在宅保健サービス、痴呆症高齢者対策など)
②生涯を通じた健康づくりの必要性の高まり(ライフステージごとの健康検査、健康教育、障害者保健、精神保健など)
③健康づくりに対する関心の高まり(自発的健康増進活動の支援)
④新しい疾患等の顕在化(エイズ対策、MRSA対策、ストレス対策など)
⑤非常時の安全と安心の追求(救急医療、災害医療など)
⑥生活環境の多様化と高度化(生活衛生、環境衛生、食品衛生、ペット対策など)
⑦保健・医療・福祉の総合化の要請(組織対応、連携、情報システムなど)
(「港区保健衛生事業概要」平成八年版)
なお策定に当たっては、東京都保健医療計画と港区地域福祉計画「みんなとすこやか21(福祉編)」との整合性にも配慮された。
平成二年以降の健やかな生活のための計画が作成・再編される中、区民の関心を呼んだものの一つにエイズがあった。そこで区はエイズ予防キャンペーンを実施し、「広報みなと」での啓発やAIDSワクチンブックの配布、シンポジウムの開催などにより、「抗体検査」や電話相談等を行った。
福祉との連携を図る区の取組の一つに、平成七年の区立公衆浴場「ふれあいの湯」の開設を取り上げることができよう(図12-2-3-2)。衛生的で快適な区民生活を確保し、住み続けられるまちを実現するとともに、失われつつある人と人とのふれあいのあるまちづくりの一助とするためとするのが区の構想である。ふれあいの湯の一階の入り口を入ると、すぐに目につく自動販売機で入浴券を購入し、正面のフロントで受付を済ませ、エレベーター等で二階(女湯)、三階(男湯)の浴室へ上がる。浴室の壁面には信楽焼のタイルでレインボーブリッジが描かれていた。体の不自由な人でも利用できるよう手摺り、エレベーター、トイレ、スロープなどの配慮もなされた。入浴の後は、四階の休憩室でリラックスすることもできるように設計された(図12-2-3-3)。

図12-2-3-2 ふれあいの湯(令和2年) 筆者撮影

図12-2-3-3 ふれあいの湯の見取り図

「広報みなと」平成 7 年 2 月 1 日号から転載


また区民の健康増進を実現するべくその翌年には健康増進センター「ヘルシーナ」が開設された。平成八年二月一三日から、赤坂支所、赤坂保健所、赤坂土木事務所が新庁舎で業務を開始したが、この新庁舎は従来の支所、土木事務所に加えて、保健所、区民センター、健康増進センター、区立住宅などを併設した複合施設で、施設全体の愛称は「赤坂コミュニティーぷらざ」とされた(図12-2-3-4)。新庁舎六階に入ることが決まった健康増進センターが「ヘルシーナ」であり、身近な健康増進施設として区民生活に浸透することが期待されたのである。

図12-2-3-4 赤坂コミュニティーぷらざの各階配置図

「広報みなと」平成8年2月1日号から転載


高齢者の増加を背景に介護保険制度の準備が進む中、在宅高齢者訪問保健指導や在宅ねたきり高齢者訪問歯科診療への取組も重要とされた。前者は寝たきりの状態にある高齢者の家庭を訪問し、療養・看護・機能訓練等の方法を指導し、心身の機能の低下を防ぐことにより生活の質の向上を図ろうとするものであり、後者は在宅で寝たきりの状態にある高齢者に対し、往診による歯科診療を実施することにより、利用者の心身機能の低下の防止と健康の保持増進を実現しようとした。そして港区では高齢者に対する適切なサービスを提供するべく、福祉と保健の連携の実現にも試行錯誤が繰り返され、高齢者等すこやか支援調整チームの効果にも注目していた。通常は高齢者に関わる職員間で直接連絡をする中で調整がなされるところ、調整が困難、あるいは調整機関が多岐にわたるケースに向き合う際にすこやか支援調整チームを開催し、個別ケースごとにチームを編成して調整を進めたのであった。必要に応じて区職員以外の参加を求めることも想定されていた。  (小島和貴)