(E)高齢者の福祉

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高齢化社会の進行が如実になったこの時期、港区は高齢化社会への対応に大きく力を注いだ。基本構想において「高齢者福祉の充実をはかる」として「住みなれた地域で安心して生活できるよう、高齢者福祉施設の設置や拡充をはかる。保健、医療、福祉、住宅、労働をはじめ、関連施策の連携をはかり、寝たきりやひとり暮らしなどの高齢者やその家族に対して、抱える問題の種類と程度に応じて、地域で支援する体制を整える」「生涯学習、就労、経験活用をはじめとする生きがい対策や、社会参加の機会と場の拡充につとめるとともに、高齢者を福祉の受け手としてだけでなく、その担い手として新たな役割を果たせるよう支援する。さらに、高齢者の生活をゆとり、遊び、憩いなどといった視点から捉えた施策の充実をはかる」ことが目指された。
昭和五六年の基本計画では、利用希望者が多く新設が期待されていた特別養護老人ホームの開設が計画事業となった。建設のために用地取得した白金台の林野庁宿舎跡地は、隣接する自然教育園への影響や埋蔵文化財などの問題を抱えていたが順次解決し、昭和六三年九月、区初の区立特別養護老人ホーム「白金の森」開設に至った。同施設には、デイサービスを提供する高齢者在宅サービスセンターが併設された。この施設設置が持つ意味は大きく、深くて重い。なぜならば、国の政策の志向と異なるベクトルを持つものだったからである.国は昭和五六年に第二次臨時行政調査会を設置し、行政改革と予算編成におけるゼロ・シーリングを打ち出し、行財政改革を進めた.官業民営化の路線はこの時期に確定された。そのような状勢が背景にありながら、港区は新施設の設置に踏み切り、さらに拡充を図ったのである。ある意味では地方分権の表れだが、区民のニーズに即して運営する自治体という港区のスタイルを象徴することであった。平成八年七月には「特別養護老人ホーム港南の郷」、同八月には「ケアハウス港南の郷」が開設された。
昭和五七年に実施された高齢者単身世帯実態調査は、港区の高齢化対策を検討していく上で重要な福祉ニーズの把握となった。
入所施設確保の取組と併せて在宅福祉に関わる施策が順次、展開されていった.これらは、後の地域包括支援体制の布石であり基盤となった。昭和五七年、車いす使用者や寝たきりの人の社会参加の促進を図るため、福祉キャブ(リフト付タクシー)の運行が開始された。平成六年、高齢者紙おむつ給付を開始し、翌七年に高齢者紙おむつ代の助成を開始した。
平成二年、住宅に困窮しているひとり暮らし等高齢者のために、必要な在宅サービスを受けながら自立した生活を送る高齢者集合住宅「ピア白金」が開設された。その後、「フィオーレ白金」(平成三年)、「はなみずき白金」(同五年)、「はなみずき三田」(同八年)も開設された。高齢者が住み慣れた地域社会の中で安心して日常生活を営めるよう、高齢者の定住化対策の推進に資するための港区高齢者定住化基金条例を制定したのはこの時期、平成三年だった。
なお平成八年に台場高齢者在宅サービスセンターの運営を港社協へ委託した。すべての福祉関連事業を区行政が直営するのではなく、委託方式による実施への転換も徐々に進めたのである。
高齢者の生活支援に向けた医療面からのアプローチも並行して行われた。昭和五七年に制定された老人保健法により、老人医療費支給制度と同様、七〇歳以上の高齢者および六五歳以上の障害者を対象に本人の一部自己負担が導入されたが、港区は同法施行前から成人病予防、老人保健事業を実施してきており、老人保健法により、健康手帳の交付、健康教育、健康相談、健康診査、機能訓練、訪問指導を実施することとした。昭和五九年には医療給付も開始する。同年一〇月、定年退職し国民健康保険に加入している高齢退職者とその家族の医療について、自己負担額を軽減する国民健康保険の退職者医療制度が発足した。
高齢者の加齢による身体機能の低下として現れるケアニーズへの対応だけではない。高齢者の長寿を喜ぶ社会づくりも行っている。平成九年「港区寿商品券等贈呈要綱」を制定した。さらに高齢者の生きがいづくり、社会参加の環境づくりにも取り組んでいる。全国で組織化が図られている老人クラブは港区でも組織化が進んだ。そしてその活動基盤の整備として、区は昭和五五年に「港区老人クラブ活動助成要綱」「港区老人クラブ連合会補助金交付要綱」を制定し、施行した。同年、港区高齢者事業団が社団法人シルバー人材センターに組織を再編することもなされ、翌年には「港区シルバー人材センター補助金交付要綱」が施行され、様々な整備が図られた。
高齢者の社会参加の機会に資する拠点の確保と整備も福祉会館を一七施設設置することで行われている。昭和六〇年には一施設がさらに設置され、区内に一八施設ができた。入浴に関わる便宜も図っている。平成六年「港区立公衆浴場条例」が制定され、平成七年に区立公衆浴場「ふれあいの湯」が開設した。平成一〇年には「港区無料入浴券給付事業実施要綱」が制定されている。
平成九年の介護保険法制定、同一二年四月一日施行に向け、港区は他の自治体と同様にその準備を計画的に進めた。高齢者介護保険計画・保健福祉計画も策定された。