基本構想は子どもを育むことを重要な課題と捉え、「健やかな子どもの『育ち』を支える環境を整備する」「就学前児童ケアサービスを総合的に推進する」とした。都心であることを踏まえ、「『家庭―学校―地域社会』の複層的な関わりを充実させるために、関係機関・部署が積極的に連携し、課題解決」に取り組むこと、「子どもに対するいじめや虐待を未然に予防し、子どもの権利擁護のシステムの構築」を進めることを明らかにした。子育ちと子育て支援を総合化し横断的に取り組むというものである。
実際、この時期に入り、子ども家庭支援ネットワーク体制を構築するなどの施策を展開している。人口の回復は年少人口の増加にも現れ、子育て支援や児童健全育成機能の充実が重要となった。子ども家庭支援センターや子育てひろばの設置により、専門家による相談の充実や子育て家庭の交流が図られている。子育て懇談会の開催や子育てサークル活動の支援、民生委員・児童委員による子育て支援ネットワークの構築も進んできた。区役所・支所改革により地域特性に合わせた子育て支援事業やネットワークづくりなどが進展した。多様化する保育ニーズへの対応、保育の質の向上など、保育の「量」と「質」の両面から子育て支援の充実を図ることが求められ、それに応える施策展開が図られたといえよう。
具体的な展開は次のとおりである。乳幼児に関わるものとしては、平成一二年に子ども家庭支援センターを設置、同一三年に育児サポート事業を開始、同一四年に産休明け保育を開始した。そして子育てサポートハウス「あい・ぽーと」の開設(平成一五年)、港区次世代育成支援対策行動計画の策定(同一七~二一年度)、病児保育事業の開始、出産費用助成の所得制限なしによる実施(同一八年)が順次、行われた。
就学前児童の増加や保育ニーズの拡大に対応するため、「港区公立保育園のあり方検討会報告書」(平成一八年)、「港区立保育園のあり方について(まとめ)」(同二二年)が提出され、保育サービスの充実への努力がさらに図られた。平成一九年に待機児童を解消するため区独自に港区緊急暫定保育事業を開始し、旧飯倉小学校に東麻布保育室を開設した。同年、芝浦アイランド児童高齢者交流プラザ・芝浦アイランドこども園の開設、病後児保育事業の開始も行っている。平成二〇年には子育てひろば事業を開始し、児童扶養手当対象外の父子家庭に対し、ひとり親(父子)家庭支援助成事業も開始した(同二二年に児童扶養手当法の改正により、父子家庭も手当の対象となったことから、区独自の助成は終了)。平成二一年は、二三区で初めての家庭相談センター(配偶者暴力相談支援センター含む)を開設した。
平成二二年、港区次世代育成支援対策行動計画(同二二~二六年度)が策定された。だが大規模集合住宅建設による人口増、出生数の増加、共働き世帯の増加など保育需要はますます増大していき、区の保育行政を取り巻く環境は大きく変化した。平成二四年には神明保育園が開設された。
平成二七年四月時点で保育定員は六六三八人と一〇年前の約三倍に拡大し、待機児童は様々な施策展開により大幅に減少した。子ども・子育て関連三法の制定と平成二七年四月からの新制度実施に伴い港区子ども・子育て支援事業計画(平成二七~三一年度)が策定され、子ども・子育て支援施策の推進が図られ続けている。さらに保育を必要とする誰もが安心して子どもを産み育てることができる港区を目指し、「港区の今後の保育行政のあり方」(平成二七年)を策定した。平成二八年、緊急暫定保育施設の名称が港区保育室へ変更された。平成二九年、保育定員を約一〇〇〇人拡大する「港区待機児童解消緊急対策」を策定し、令和元年に待機児童ゼロを達成した。令和二年、元麻布保育園が開設された。元麻布保育園は、医療的ケアを必要とする子どもに対する保育を提供するため、医療的ケア児や障害児等の個別的支援保育を開始した。
並行して就学後の子ども達の育ちに関わる施策も展開してきた。平成一五年の区立児童館を土曜日に開館することもその一環である。各地区に子ども中高生プラザを設置し、これまでの児童館と類似サービスが重複しないように適正配置するとともに、学童クラブ「放課GO→クラブ」の新規開設を行うなどの整備を進めた。赤坂子ども中高生プラザ「なんでーも」開設(平成一五年)、「放課GO→」放課後児童(健全)育成事業開始(平成一六年)、港南子ども中高生プラザ開設(同一八年)、「放課GO→クラブ」新規開設(同二一年)、高輪子ども中高生プラザ開設(同二三年)、神明子ども中高生プラザ開設(同二四年)、麻布子ども中高生プラザ開設(同二六年)も行った。
令和二年、港区子ども・子育て支援事業計画(令和二~六年度)が策定された。同年には保育園保育料を改定し、二三区で初めて第二子以降の子どもの保育料を無料にした。今後も子どもの福祉に関わる環境の整備が多様に図られていくことが予測される。