(E)高齢者の福祉

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基本構想は「ゆたかで自立した地域での生活を支援する」「健やかで安全に暮らすことができるように努める」「多様な学習活動を支援する」として、「多様で柔軟な福祉サービス供給体制の確保・整備」「多様な在宅福祉・施設福祉」「高齢者の社会参加・いきがい活動の場の確保」「利用者本位の権利養護・苦情解決システムの構築」を進めることを明らかにした。ボランティア団体、NPOなどを育成・支援、協働を進めることも明らかにした。港区の高齢者福祉施策の時系列での展開は次のとおりである。介護保険制度の施行を確実にやり遂げるとともに港区ならではの福祉資源の創出に努めていることがわかる。
平成一二年、この期は介護保険法の施行で幕が開いた。以降、超高齢社会への対応のため、区は所要の施策を多数実施するとともに、随時、組織改編等を行った。同年三月、港区介護保険事業計画が策定された。その他、高齢者家事援助サービス事業、高齢者自立支援住宅改修給付事業が開始された。五月、芝在宅介護支援センターの開設により、五支所管内すべてに在宅介護支援センターが設置されたこととなる。これは港区において日常生活圏域を踏まえた地域包括支援体制の整備が目指す水準に到達したことを意味する。もちろんこれに留まるものではなく、ここを起点として次のステージを目指して拡充するとともに新たに顕在化してきた問題、課題について検討、対応していく。
平成一三年、高齢者事業者方式救急通報システムを開始。障害者福祉の項でも触れたが、平成一四年に港区バリアフリータウンマップを作成した。
平成一五年、旧氷川小学校跡地に、港区で初めて児童施設と高齢者施設の複合施設として「特別養護老人ホームサン・サン赤坂」が開設された。
同年九月には同一七年に予定されている介護保険法の改正に向け、港区は保険者として、都心区という特性も踏まえ、直面している制度上の課題を「港区介護保険白書」としてまとめ、国や東京都に提言した。全国に先駆けてのことである。
平成一六年、高齢者の自立と社会参加を促進するため「高齢者共同住宅バリアフリー化支援事業」を二三区の中で先駆的に実施した。介護保険料および利用料軽減策として、都心区で生活する高齢者の生活に配慮した収入基準とするなどの要件緩和も行った。同年、港区コミュニティバス乗車券の発行も開始した。
平成一七年に介護保険法が改正されると、保険者である港区の役割と責任は一段と高まった。第三期介護保険事業計画(平成一八~二〇年度)の保険料設定に当たっては、保険料一〇段階制の採用、低所得者へ配慮した税制改正に伴う激変緩和策の実施、保険料軽減制度の継続等により、負担の公平性を図った。また、改正により予防重視の仕組みへ転換されたことを受け、区は福祉会館や地域包括支援センター等との連携を強化し、健康トレーニング、区独自の介護予防体操「みんなといきいき体操」の普及、介護予防健診「おたっしゃ21」の実施、介護予防リーダー・サポーターの育成などの総合的な介護予防プロジェクトを実施した。介護サービスの利用者増大に伴い介護サービス事業者も増大すると、サービスの質が問われることになった。このため、サービス利用者やその家族が、自ら事業者を選択し、良質なサービスの提供を受ける仕組みとして、介護サービス事業者の検索システムによる事業者情報の公開や介護保険事業者向け研修の実施による質的なサービスの向上を進めた。地域型認知症予防事業、認知症高齢者見守り事業も開始した。
平成一八年五月、旧桜川小学校跡地に開設した「福祉プラザさくら川」は、社会福祉法人等の民間活力を活用して、「特別養護老人ホーム」「介護老人保健施設」「障害者支援施設」の三機能を集約した施設である。港区における公民協働の一つの例といえる。同年、高齢者会食サービスを開始した。また、介護保険法の改正を踏まえ、在宅介護支援センターを廃止し、区内五地区に地域包括支援センターを設置することとなった。国の政策展開を背景としながら、港区で蓄積してきた高齢者支援施策のさらなる総合化を図る地域包括支援体制の本格化と捉えることができる。
平成一九年、区は保健福祉支援部高齢者支援課の組織整備を行った。施設運営係と高齢者施設計画担当を統合して高齢者施設係を設置し、併せて高齢者施策推進担当、高齢者相談担当、介護予防担当を設置した。また同年、児童と高齢者がふれあい、世代間交流ができる場として、芝浦アイランド児童高齢者交流プラザ(愛称あいぷら)が開設された。同年一〇月には、ひとり暮らし高齢者の孤独死や介護に伴う虐待などを防止するセーフティネットワークを構築するため「港区高齢者地域支援連絡協議会」を設置した。高齢者のインフルエンザ感染時における重症化や死亡等を防止し、公衆衛生の向上を図るため、六五歳以上の高齢者を対象に、インフルエンザ予防接種の自己負担額を二三区で初めて無料化したのは平成一九年度のことである。
老人保健法が「高齢者の医療の確保に関する法律」に改正施行された平成二〇年、介護予防プロジェクト(介護予防健診「おたっしゃ21」の実施、介護予防イベントの開催等)を開始した。高齢者の安全・安心を支援することを目的として、高齢者等の一一九番出動時に迅速な救急措置等に役立てるため、全国に先駆け救急医療情報キットを配布することも行った。障害者福祉でも触れたが、港区バリアフリータウンマップも冊子の形式で発行した。同年三月に「港区団塊世代応援プラン」を策定している。
平成二一年二月、高齢者の就業機会の創出を図ることを目的として、概ね五五歳以上の人を対象に、無料職業紹介、就業相談、地域における多様な働き方の情報提供などを行う就業支援窓口「みなと*しごと55」が開設した。
平成二二年、介護が必要な在宅高齢者の通院を支援するため、介護保険制度に含まれない病院内での介助サービスを提供する区独自の高齢者通院支援サービスを開始した。同年、南麻布四丁目に、特別養護老人ホーム、老人保健施設、ケアハウス、認知症対応型グループホームを併設した高齢者保健福祉施設「ありすの杜南麻布」を開設した。これにより、高齢者人口に占める特別養護老人ホームのベッド数の整備率は、二三区で一番高い水準となった。
平成二三年三月、「港区立いきいきプラザ条例」を制定し、福祉会館と健康福祉館の名称を「いきいきプラザ」へ変更した。この条例により、「高齢者のいきがいづくり、学びの場」「介護予防、健康づくりの場」「ふれあい、コミュニティ活動の場」として高齢者を元気にする施設を目指すとともに、指定管理者制度を導入し、民間の専門性を活用した介護予防および健康づくりなどの事業等を拡大実施した。同年、高齢者のセーフティネットの一環として、ひとり暮らし高齢者などを訪問し、支援につなげていく「ひとり暮らし高齢者等見守り推進事業」の「ふれあい相談員」を芝、高輪に配置した。この配置は翌年に全地区で配置するに至った。
地域包括支援センターを「高齢者相談センター」とし、地域の高齢者が何でも相談できる身近な場所として、より区民にわかりやすく利用しやすい施設となる工夫も行った。また、在宅で介護する家族の負担軽減のため、デイサービスに引き続き宿泊できる「港区版宿泊デイサービス事業」を実施するとともに、認知症の高齢者を短期間、施設で受け入れる「認知症高齢者家族支援事業」を開始した。前述したふれあい相談員は高齢者相談センターと連携しながら、高齢者の生活実態に即した支援へつなげている。
なお、社団法人港区シルバー人材センターは平成二三年に公益社団法人港区シルバー人材センターへ名称変更している。
平成二四年一一月、小規模多機能型居宅介護施設を「ありすの杜きのこ南麻布」に開設した。
平成二六年、「高齢者の見守りに関する協定」をライフライン(電気・ガス・水道)事業者と締結した。医療・福祉機関が連携し、認知症の人とその家族が地域で安心して生活できるよう支援する医療機関連携型認知症介護者支援事業(通称みんなとオレンジカフェ)が開始した。同年一二月、介護予防の総合的な拠点として「みなとパーク芝浦」に開設した介護予防総合センター「ラクっちゃ」は二三区で初めての取組である。介護予防に関する研修、情報提供、フリーマシントレーニング等の事業を実施している。また、「ラクっちゃ」を中核に、高齢者相談センターやいきいきプラザ等と連携し、運動や健康講座などを含めた様々な介護予防事業を実施するようになった。障害者福祉にも関わる港区バリアフリー基本構想の改定がなされたのも同年である。
平成二七年、区は高齢者支援課高齢者施設計画担当、障害者福祉課障害者施策調整担当を統合し、保健福祉課福祉施設整備担当を設置するとともに新たに包括ケア担当を設置する組織再編を実施し、高齢者が住み慣れた地域で自立した生活ができるよう、住まい・医療・介護・予防・生活支援が一体的に提供される地域の支援体制の構築を推進するため、港区地域包括ケアシステム推進会議が設置された。これにより、平成二九年に赤坂コミュニティプラザ内に在宅医療・療養・介護相談連携窓口を設置することとなり、さらにその翌年に西部在宅療養相談窓口と改名した。それとともに同年、東部在宅療養相談窓口の設置も行った。
平成二八年、介護予防・日常生活支援総合事業を開始し、高齢者相談センターと連携した区独自の高齢者サービスを円滑に実施するため、高齢者支援課に総合事業推進担当を設置した。また、介護保険制度の運営を担う組織として、より適正な給付や円滑な要介護認定の取組等を充実させるため、介護保険担当課長を廃止し、介護保険課を設置した。
平成二九年、特別養護老人ホーム、小規模多機能型居宅介護施設、認知症高齢者グループホームなどの施設整備を推進する一方、生活支援体制整備事業として、地域における支え合い体制づくりを目的に各地区に生活支援コーディネーターを配置した。国の政策である地域共生社会づくりに連動するものである。同年、障害者福祉の項で述べたように、港区バリアフリータウンマップを再構築して港区バリアフリーマップを公開した。
平成三〇年、みなとパーク芝浦内にも生活支援コーディネーターを設置し、区内全域での相談体制が確立することとなった。港区の地域包括ケアシステムは着々と構築が図られてきたのである。同年、高齢者日常生活用具給付事業と認知症高齢者等おかえりサポート事業を開始した。
令和元年、高齢者民間賃貸住宅入居支援事業を開始した。
港区は高齢者人口が増加し続ける状況下、以前から計画的に特別養護老人ホーム(特養)をはじめとした高齢者福祉施設の建設を進めてきた。特養についていえば、高齢者人口に対するベッド数の整備率は二三区で最も高い水準を維持している。さらに南麻布に一〇〇床を整備するなど、整備への取組は継続されている。入所施設と在宅福祉をつないだ総合的な地域包括ケア体制の確保に留まらず、健康な高齢者の生きがいを支える地域づくり、他世代交流のある地域共生社会の形成を、高齢者福祉の施策展開を通じて区民に示していると考えることができる。誰もが安心して住み続けることのできる福祉のまちづくりが理念で終わらず、現実のものとして現れているといえる。