〔第六節 港区の社会福祉――まとめにかえて〕

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ここまで、第二次世界大戦後のわが国の社会福祉の定礎期、発展期、改革期、転換期という四つの時期を設定して横軸とし、国、都そして港区の社会福祉にかかる事柄を縦軸に記述してきた。しかし、既に明らかなように、港区の社会福祉についての記述は時期によって必ずしも豊かなものではないところがある。むろん、そこに理由がないわけではない。わが国の社会福祉は、定礎期とした時期に成立した生活保護法、児童福祉法、身体障害者福祉法、そして社会福祉事業法以来、国の責務として設定した生活保護や福祉サービスに関する事務を機関委任事務・団体委任事務という行政手続きを通じて運用・実施してきており、行政の末端に位置する港区が独自に社会福祉の事業を創出し、あるいは運用・実施するという状況にはなっていなかった。その限りでは、港区における社会福祉は、生活保護や保育所の設置運営等を除き、国が設定し、都を通じて施行されるという枠組を前提とし、そこで求められた役割と機能を充足するというかたちになった。
しかし、その中でも、社会福祉の定礎期においては、先に紹介した「社会福祉法人恩賜財団慶福育児会」による『慶福育児会のあゆみ』(一九九五)にみるように、国による施策の不備を補うかたちでの民間の団体、組織、個人による活動が行われてきた経緯がある。もちろんそれだけでなく、港区として住民の生活と福祉を支えるため、限られた財源等から社会資源づくりに投入してもいた。発展期や改革期においては、民間の団体や組織による活動や事業が展開されており、一部には港区による単独事業も登場、展開された。
加えて、転換期以降においては、地方自治の枠組が変わり、社会福祉のうち法定受託事務となった生活保護を除き、福祉サービスは自治体、とりわけ基礎自治体としての区市町村の自治事務として位置付けられている。さらに、特に二〇一〇年代以降においては、地域共生社会創出政策が推進され、自治体としての港区、そして住民、福祉団体、福祉保健関連組織、学校、企業等を構成員とする地域社会(コミュニティ)としての港区のそれぞれが、役割を担い機能を果たし、両者の連携と協働による社会福祉を進めることが求められている。
港区の行政と地域社会や福祉関係団体等との連携、協働による社会福祉の推進には、両者それぞれが住民の福祉の実現を左右する場である港区について、人口や家族の構造の動向をはじめ、保健、医療、教育、住宅、建造物、街並みなどの社会資源、そして産業、政治などに関心をもつことが欠かせない。そして、関心から入手する港区の住民の生活ニーズ(福祉のみならず、保健医療、教育、更生保護、まちづくり、災害など生活の多様な側面にかかわる複合的な生活ニーズ)を適宜、詳らかにし、確実に対応を図る営みが期待される。世界をあげて安定した生活の確保と生命や健康の維持に困難が生じている状況下、従来の施策の分野・領域を越えた総合的な対応が一層問われる時代を迎えている。港区はこれまでの実績を大きな力として、必ず先駆的な取組を叶えることができるであろう。
これらを念頭に置きながら、最後に、港区における社会福祉の特徴について明記しておきたい。
・  二三区で最初の実施や、二三区で最も望ましい水準の確保など、行政は積極的な社会福祉資源の造成に取り組んできた。
・  国や都の政策や施策に先んじて取り組むこと、あるいは国や都の政策・施策を活用して発展することなど、積極的な福祉政策の展開に努めてきた。
・  二三区内では低位にあるが、生活保護の利用世帯も一定数ある。港区の福祉政策は低所得者のニーズから心身に関わる介護ニーズ、社会参加のニーズなど、全方向の対応を図っている。
・  定礎期は、都がまず施設や事業を設立し、数年して区へ移管する流れが複数あった。転換期には区から都、国への提言がなされることもあった。区政と都政との連携、協力が意識化されている。
・  計画策定を率先して行ってきた。国の法制度に留まらない計画づくりとその実行という施策の展開方式が定着している。基本構想、基本計画、個別計画の連動が確保されている。地域保健福祉計画にみるように、領域間連携、協働、総合的な展開に努められている。
・  各種拠点の確保に積極的である。
・  社会資源の継続性や継承性の確保への努力がうかがわれる。
・  新しい公共性を配慮しながら、公的責任の確保に努められ、民間の振興が図られている。行政、社会福祉協議会、社会福祉法人、企業、市民・ボランティア団体、区民等、様々な主体間連携が成立している。
・  天皇や賓客をはじめとした様々な層の視察先に選定される施設があり、社会福祉への社会的関心を高める機会の提供が少なくない。
最後に社会福祉法を取り上げて付言したい。社会福祉法は(地域福祉の推進)第四条で、

地域福祉の推進は、地域住民が相互に人格と個性を尊重し合いながら、参加し、共生する地域社会の実現を目指して行われなければならない。

2地域住民、社会福祉を目的とする事業を経営する者及び社会福祉に関する活動を行う者(以下「地域住民等」という)は、相互に協力し、福祉サービスを必要とする地域住民が地域社会を構成する一員として日常生活を営み、社会、経済、文化その他あらゆる分野の活動に参加する機会が確保されるように、地域福祉の推進に努めなければならない。

3地域住民等は、地域福祉の推進に当たつては、福祉サービスを必要とする地域住民及びその世帯が抱える福祉、介護、介護予防(要介護状態若しくは要支援状態となることの予防又は要介護状態若しくは要支援状態の軽減若しくは悪化の防止をいう)、保健医療、住まい、就労及び教育に関する課題、福祉サービスを必要とする地域住民の地域社会からの孤立その他の福祉サービスを必要とする地域住民が日常生活を営み、あらゆる分野の活動に参加する機会が確保される上での各般の課題(以下「地域生活課題」という)を把握し、地域生活課題の解決に資する支援を行う関係機関(以下「支援関係機関」という)との連携等によりその解決を図るよう特に留意するものとする。
と規定している。また前節で述べたとおり日本の福祉政策は社会福祉の運営について地域福祉の推進を軸としたものとなっている。このような趨勢のもとにあって、港区は二一世紀の半ばに向かって自律的な福祉の政策を構想し、地域コミュニティを形成する住民、多領域の福祉保健医療関係者をはじめとした生活支援の関係者、様々な社会貢献を行う事業主体等との協働で区民のウェルフェアを引き続き支え、創造していくことが期待できるといえる。  (西田恵子)