【港区の教育目標と教育計画】 港区では、昭和五六年から平成五年まで、次の教育目標が掲げられていた。
人間尊重の精神と心身の健康増進を基本として、広く国際社会において、信頼と尊敬を得られる区民の育成を目指し、未来の展望に立って生涯にわたる教育を推進する。学校教育においては、心の交流と自然や文化とのふれあいを通じて、自主性・創造性ならびに社会連帯意識に富んだ気品と知性と実践力のある幼児・児童・生徒の育成を目指した教育を推進する。社会教育においては、区民が郷土を大切にし、文化的教養を高め、スポーツに親しみ、心身ともに健康で生きがいに満ちた生活を営むために、あらゆる機会を通じて自ら学び、自ら考えることのできる教育を推進する。
この間、港区全体の計画として、平成三年五月に「港区基本計画」が策定された。これは前年四月に策定された「港区基本構想」(第二次)の実現に向けた計画である。教育委員会が所管する分野では、生涯学習の体制づくり、開かれた学校づくりの推進、特色ある学校教育の推進と学校の適正配置などが施策の柱として記されている。
その後、区の教育目標に関しては、家庭教育、学校教育、社会教育相互の密接な連携や生涯学習振興などが盛り込まれたが、平成九年度からは、人権尊重教育の推進、社会性を育む教育の推進など一〇の基本方針に基づく形式となった。基本方針については、平成一五年度から、人権尊重の推進、魅力ある学校教育の推進、生涯学習の推進など五つに変更された。また、平成一七年度からは、学校教育と生涯学習の二本立ての教育目標となった。
平成一七年度から教育委員会は「教育の港区」のスローガンを掲げて、区民に信頼される学校、区民とともにある学校、子どもたちが誇れる学校、の三つを学校づくりの基本的姿勢として示した。
二〇〇〇年代初めの港区の教育に少なからず影響を与えたのは、平成一二年度に実施された都区制度改革と、翌一三年五月に設置され、一四年一一月に報告書が出された「これからの港区の教育を考える委員会」である。
平成一二年の都区制度改革では、特別区は市町村と同じ地方自治法上の「基礎的な地方公共団体」に位置付けられた。教育分野では、市町村の教育委員会が処理すべき事務の一部を特別区にあっては都の教育委員会が処理すると定めた「地方教育行政の組織及び運営に関する法律」(地教行法)第五九条が削除された。その結果、幼稚園教員の採用その他の事務、教育課程・教科書等の取り扱い、都費負担教職員の内申権などの事務が特別区の教育委員会に移管された。
「これからの港区の教育を考える委員会」は、学識経験者、校長・園長、PTA関係者等で構成され、今後の港区の幼稚園、小学校および中学校の教育をどのように推進していくべきか、様々な観点から検討を重ねた。平成一四年一一月の報告書では、港区の教育の目指すべき基本的視点を示したうえで、国際理解教育の充実・拡大(国際科・英語科国際の設置)、学校間の接続・連携を考慮した新しい学校づくり、学校評議員制度(地域住民が学校運営に参画する仕組み)の実施と開かれた学校教育の推進、区立学校(幼稚園、小学校および中学校)の適正規模および適正配置などに関する施策の推進を求めた。ここでの議論は、後で述べる学校選択希望制の導入や教育特区など、港区の教育施策に反映されていった。
【学校選択希望制の導入】 平成九年に文部省(当時)が「通学区域の弾力的運用について」の通知を発出したことを契機に、同一二年頃から全国で学校選択制を導入する自治体が現れ始めた。都内では、平成一二年度から品川区が導入を開始し、港区でも同一五年度から学校選択希望制が導入された。
学校選択希望制の目的は、「開かれた学校づくり」や「特色ある学校づくり」を推進し、学校の教育活動の活性化を図ることにある。背景としては、区立小学校から区立中学校への進学率が60%を下回るなど、区立小・中学校の魅力を高めることが求められる状況にあったことが挙げられる。区では、住所地の通学区域の学校に就学することを原則としつつ、希望する場合には、小学校では通学距離や体力的な負担を考慮して指定校に隣接する学校も選択可能とする一方で、部活動などの事情がある中学校では区内全校から選択可とした。様々な理由から近年制度の見直しや廃止を図る自治体が増加傾向にある一方で、港区は導入当初から制度を変更することなく運用している。
【国際人育成を目指す教育特区の認定】 港区は、区内に駐在外国公館が多く立地していることや、区内在住の外国人が多いことから、二〇〇〇年代はじめから英語教育を含めた国際理解教育に力を入れるようになっている。「これからの港区の教育を考える委員会」での検討などを経て、平成一六年度には「港区における英語教育推進委員会」が設置され、国の構造改革特別区域計画の認定を申請し、翌一七年に「国際人育成を目指す教育特区」に認定された。
認定を受けて、平成一八年度からは、区立小学校で「国際科」、区立中学校で「英語科国際」を新設した。国際科は週あたり二時間実施し、独自の教科書・教材を作成し、授業は原則学級担任と各校一人配置されるネイティブ・ティーチャー(NT)が協力して行う。英語科国際は週あたり一時間実施し、学習内容を英会話教育に特化している。また、各学校には指導内容の調整や課題の整理などについて指導助言する英語教育アドバイザーを配置した。このほかに、平成一九年度から小中学生海外派遣事業なども実施している。