児童生徒数が急激に増加する中で、区は教育環境の整備や特色ある教育施策の取組を引き続き進めてきた。ここでは学校施設の整備、教育センターの移転・整備、幼・小中一貫教育、国際理解教育、特別支援教育、幼児教育の振興、開かれた学校づくり、教員の働き方改革を取り上げる。
【学校施設の整備】 児童生徒数の増加に対応し、区は近年も引き続き学校施設の整備を進めている。平成二〇年一二月には白金台幼稚園、同二一年一〇月に三田中学校、一二月に高陵中学校、同二二年二月には港南小学校、一二月に芝浦幼稚園・芝浦小学校、同二三年二月に港南幼稚園の園舎・校舎がそれぞれ竣工した。最近では平成二六年一一月に白金の丘学園白金の丘小学校・中学校校舎、同三一年三月に麻布幼稚園増築園舎が竣工した。
【教育センターの移転・整備】 昭和四〇年度に開設された教育センターは、教員の研修と指導方法などの調査研究、教育相談などの各種事業・活動を行っている。隣接する三田中学校の新築工事に伴い、鞆絵(ともえ)小学校跡地に移転する予定であったが、移転計画が遅延したことから、平成一九年七月に芝二丁目の菱化ビルに、同二八年三月には旧三光小学校校舎に移転した。その後、ようやく令和二年四月に虎ノ門三丁目の鞆絵小学校跡地に気象庁庁舎、港区立みなと科学館との複合施設として竣工・移転した。
【幼・小中一貫教育】 平成二一年一月の教育委員会で小中一貫教育の導入が決定し、同二四年度には区の基本方針として幼小連携、小中連携、小中一貫教育の推進などが盛り込まれた。同年度からは、中学校通学区域を単位とした「アカデミー」が発足し、アカデミー内での幼・小中一貫教育を実施している。
この間、平成二二年度に区内初の小中一貫教育校「お台場学園港陽小学校・港陽中学校」が開校した。また、平成二七年度には「白金の丘学園白金の丘小学校・白金の丘中学校」が開校した。令和五年度には、赤坂地区での施設一体型小中一貫教育校の開校を予定している。
この間には、区独自での検証も行われている。平成二四年に教育委員会で報告が行われた「港区立小中一貫教育校推進・検証委員会報告書」では、お台場学園の成果や課題について、「学力の向上」「豊かな人間性・社会性の育成」「小中一貫教育校としての体制・運営」の三つの視点から検証が行われた。そこでは、「小中一貫学習カリキュラムODAIBAプラン」が保護者からも比較的高い評価を受けており、学力テストの結果も良好になっていることや、小学校高学年からの一部教科担任制の導入、学校行事を中心とした異年齢交流などは児童・生徒からも好意的に受け止められているなど、小中一貫教育が有効であるとの結果が出されている。
【国際理解教育】 国際理解教育に関しては先に述べた区立小学校での国際科、区立中学校での英語科国際の実施のほか、全国の自治体で唯一の取組として国際学級が行われている。外国人児童に多様な教育の機会を提供するとともに、日本人と外国人双方の児童が国際理解を深めることを目的としている。平成二〇年度から検討が開始され、同二四年度に東町小学校で、同二九年度から南山小学校で国際学級が開設された。各学年の通常学級に一クラスずつ設置し、各クラスでも一〇人程度の外国語を母語とする児童を受け入れている。
また、平成三年度に笄(こうがい)小学校に外国人児童などが漢字や文法を学ぶ日本語学級を開設していたが、対象となる児童が増加し、また中学校段階でも必要が生じてきたため、同三〇年度からは麻布小学校、六本木中学校にも日本語学級が設置された。また各小・中学校に日本語適応指導員の派遣を行っている。
【特別支援教育】 特別支援教育は、かつては障害の種別や程度に応じた特別な場での教育を行う特殊教育と呼ばれてきた。しかし従来の特殊教育の対象に含まれていなかった学習障害(LD)や注意欠陥・多動性障害(ADHD)、高機能自閉症なども含めた支援を充実させるため、国は平成一五年頃から一人ひとりのニーズに合った教育を保障する特別支援教育に転換を図った。
港区では、心身障害学級(現在の特別支援学級)が区内に概ね一五学級前後設置され、八〇人から一〇〇人程度の児童生徒が在籍していたが、二〇一〇年代に入ると人数が一五〇人以上に増加し、学級数も二〇を超えるようになっている。
区では特別支援教育に関する様々な取組がなされている。平成一七年一〇月に開設された子ども家庭支援センターでは、区とNPOとの協働事業である「個別支援室」が設置され、個別指導計画などの相談が行われている。平成二〇年一月には、港区特別支援教育推進委員会から「港区における特別支援教育のあり方」が発表され、合わせて「港区特別支援教育推進計画」が示された。
現在、特別支援教育は、都立の特別支援学校、小・中学校に置かれる特別支援学級(固定学級)、特別支援教室(通級による指導)などが主要な役割を担っている。このうち特別支援教室は、通常の学級に在籍している発達障害(LD、ADHD、自閉症スペクトラム障害)等の、学習について特別な教育的支援が必要な児童・生徒が適切な教育を受けられるよう、一人ひとりの特性とニーズに応じた学習支援を行うものである。平成二〇年度から始まり、東京都の方針を受けて同二八年度から全区立小学校、同三〇年度から全区立中学校で実施されている。このほか、学習支援員の配置(小・中学校対象児童・生徒)や特別支援アドバイザーの派遣(全区立幼稚園)などを行っている。また、特別支援学校に在籍する児童・生徒が、居住する地域の区立小・中学校に副次的な籍をもつ副籍制度を平成一九年度から実施している。
【幼児教育の振興】 平成二一年、幼児教育の一層の充実を図るための総合的な行動計画「港区幼児教育振興アクションプログラム」を策定した。平成二一年四月に幼稚園の諸課題を検討するために設けられた公私立幼稚園連絡協議会でも同プログラムの進捗状況の確認や検証がなされ、三年ごとに見直しが行われ現在に至っている。
二〇〇〇年代以降は、私立幼稚園で行われている三年保育が区立幼稚園でも多く実施されるようになった。平成一一年の中之町幼稚園での試行後徐々にその数は増加し、同二七年度以降は区立幼稚園一二園のうち一〇園で三年保育が行われている。
また、地域の実情や共働き家庭の増加など子育てをとりまく様々な環境が変化しており、そうした事情に対応するため、幼稚園では通常の教育時間終了後に預かり保育が行われている。平成一四年度から高輪幼稚園、にじのはし幼稚園で「子育てサポート保育」として開始され、令和元年度からはすべての区立幼稚園で行われている。
【開かれた学校づくり】 一九九〇年代末頃から、国は学校・家庭・地域の連携と開かれた学校づくりを推進し、その具体的な仕組みとして、学校運営に地域住民が参画する学校評議員制度が平成一二年に、校長が作成する学校運営の基本方針を承認する権限などを有する学校運営協議会(コミュニティ・スクール)制度が同一六年にそれぞれ制度化された。
区では、平成一四年度から学校評議員を設置し、全区立小・中学校で年三回程度、区立幼稚園では必要に応じて学校評議員会を開催している。また、平成二九年度から学校運営協議会の設置が努力義務化されたことを受けて、令和元年度からは赤坂アカデミーとお台場アカデミー、翌年度から南山幼稚園、南山小学校に学校運営協議会を設置した。
なお、平成一四年度からは学校評価の実施が法制化され、令和元年度現在、区立幼稚園、区立小・中学校では教職員による自己評価と、保護者らによる学校関係者評価が実施されている。