平成一七年には港区における文化芸術の振興のありかたについて検討するために「港区の文化芸術振興に関する懇談会」を設置し、同年一一月に「港区における文化芸術振興の方向性」と題した中間報告を行った。これを踏まえ翌一八年三月には最終報告書として『港区文化芸術の振興に関する懇談会報告書〜豊かで多様な文化芸術の都市をめざして〜』が発行された。基本的な考え方として①あらゆる人びとがいきいきと生活する活力の源泉となる文化の場を整える、②文化芸術を核にした人のつながり・個性あふれる豊かな地域を作る、③多様な文化の理解・尊重とともに新たな文化の発信をめざす、④文化の視点を行政のあらゆる分野や民間の活動との協働に活かすことを提示した。行政の役割を「区民一人ひとりが文化芸術活動へ主体的に参加することを促すために必要な環境づくり・基盤づくりを進めること、文化の視点でのまちづくりを行うことが重要」とし、港区スポーツふれあい文化健康財団と役割を分担しつつ担うこととなっている。これを踏まえ、文化芸術の振興について「創造と発信~多様な文化の繚乱から新たな文化を発信する」「場づくり~人びとがいきいきと集い生活するまちを創る」「人づくり~さまざまな担い手を地域で育む」「ネットワーキング~文化の担い手、情報等をつなぐ」「環境づくり~豊かな文化芸術を産むソフト、ハードの基盤整備をする」の五つの方向性を示した。また、重点的なプロジェクトとして、「文化ネットワーク~人材、組織、情報~」「創造を支えあうまち~民間の文化芸術活動への支援~」「まちの記憶が息づく都市~港区の都市文化~」の三つを提示した。
プロジェクト第一の「文化ネットワーク~人材、組織、情報~」は区内で活動する文化芸術団体や関係者がネットワークを形成し、それぞれの得意とする分野で力を結集し、あるいは不得手の部分を補い合うなど連携、協力することをめざし、文化協議会の設置、文化芸術プロジェクトの公開コンペなどにより人材のネットワークを創ること、情報媒体別の文化芸術情報の連携により情報の充実を図ること、「アートセンター」の設置など文化芸術振興の拠点を整備することなどを挙げた。第二の「創造を支えあうまち~民間の文化芸術活動への支援~」は、企業等による文化芸術活動および支援活動を支え、様々な主体の組み合わせを促進し、民間の活力をより一層引き出す新たな仕組みを創造するため、企業のメセナ(文化芸術支援)活動の表彰制度や企業とコミュニティの橋渡しなど、NPO、企業のコラボレーションなどアートNPOの活動を応援すること、文化見本市、文化関連新事業の表彰制度など新たなビジネスモデルを作ることが挙げられた。第三の「まちの記憶が息づく都市~港区の都市文化~」は、港区が歴史的な文化に彩られたまちであり、これらの資源を活かした、人びとに様々な想いを起こさせる、まちの記憶が息づく都市文化を創り上げるため、旧町名等の保存・活用、歴史舞台の活用によりまちの歴史、物語を語り継ぐこと、まちかど博物館、伝統芸能を伝えるプロジェクト、古典芸能対応ホールの活用や伝統芸能と現代文化の交流を通じて伝統的な芸能、技を今に伝えること、景観整備、景観コンテスト、公共空間のデザイニングを通じて景観やデザインに地域の歴史、文化、特性を反映させることが挙げられた。
これらを踏まえ、港区は平成一八年六月に「港区文化芸術振興条例」を制定した。同条例では年齢や障害の有無、国籍等にかかわらず誰もが等しく、文化芸術を鑑賞・参加・創造することができる環境の整備や、区のすべての施策の実施に当たり文化芸術振興を図る視点を取り入れることを規定している。また、平成一九年三月には同報告書でも指摘された文化芸術の振興を図るための基金を設置するため「港区文化芸術振興基金条例」を制定した。この基金が活用されている事業の一例として、区民に気軽に音楽に触れる機会を提供するため平成一八年から区役所ロビーなどで催されているロビーコンサートがある。
そして、この条例制定を踏まえ、文化芸術活動およびその担い手育成の支援を目的として事業化したのが、平成一九年から始まった文化芸術活動サポート事業である。平成二五年以降は港区文化芸術活動サポート事業となり、令和三年度(二〇二一年度)以降は、港区スポーツふれあい文化健康財団事業として実施している。また、多様な活動主体による多種多彩で活発な文化芸術活動が行われていることが港区の文化芸術の特徴であることから、平成二五年には文化芸術活動主体の協力・連携の場として港区文化芸術ネットワーク会議を開始する。この二つの事業が、区による文化芸術団体支援の重要な柱となっている。
さらに平成二八年からは、東京二〇二〇オリンピック・パラリンピックを契機に、港区ならではの文化プログラムとして、六本木アートナイト運営参画事業および港区文化プログラム連携事業を開始した。前者は、東京を代表する文化の祭典が子ども・高齢者・障害者・外国人等に配慮され、親しまれる内容となるよう主催者として参画することを目的とする。後者は、区内で行われる文化芸術事業とその主催団体を一定期間指定し、一部経費を負担するとともに、区と団体が連携し、区内の文化芸術および国際文化交流の発展、東京二〇二〇オリンピック・パラリンピックに向けた気運醸成、さらにはレガシー創出(未来に残すべき伝統、人材、知恵等の継承)を目指している。
港区では現在、区民が気軽に文化芸術に触れ、鑑賞できる「(仮称)文化芸術ホール」の整備に向けた準備を進めているが、これまで述べてきた文化芸術振興施策の理念を継承し、重点取組としている。この建物は、平成一九年度以降、区民も基本構想の段階から参画し検討されてきた整備計画を踏まえて田町駅東口北地区公共公益施設(みなとパーク芝浦)の一部として創設することとなり、平成二三年に一度工事請負契約議案が可決され、契約された。しかし、同年三月に発生した東日本大震災を踏まえて見直しとなり、一度整備の中止が決定し再検討が行われ、浜松町駅西口のまちづくり推進や区有地の有効活用の観点も踏まえ、区が所有する浜松町二丁目第二用地を活用し市街地再開発事業に参加した。文化芸術の鑑賞・参加・創造活動を総合的に提供する中核拠点施設となることを目指し、令和九年度開館に向けて準備が進んでいる。
港区は博物館・美術館との連携も重視している。平成一九年から実施された「みなとギャラリー」は区民が優れた文化・芸術に触れる機会を増やすため、区内の美術館やギャラリーのネットワークによる区の特性を生かしたアート事業に対し助成するもので、特別協力美術館での入場料割引などの協力を得た事業を実施している。平成二〇年には、区内の博物館・美術館が連携・協力し文化芸術振興を図ることを目的とする、バラエティに富んだ独自のミュージアムネットワークを設立した(令和二年度時点で三五館が加盟)。また、平成二四年からは毎年区内各文化施設の特色を生かした事業(ワークショップ・ギャラリートーク等)や区の文化事業を集約し、集中的にPRする「文化芸術のちから集中プログラム(MINATO COLLECTION、愛称:ミナコレ)」を実施している。