港区の国際化への取組は国際交流から始まった。昭和六一年(一九八六)七月、北京市朝陽区へ友好交流訪中団を派遣、その後同区とはスポーツ交流を経て現在でも「港区・北京朝陽区書画交流展」を続けている。平成五年(一九九三)五月には菅谷区長を団長とする友好交流団北京市朝陽区訪問も行われた。また、昭和六一年一〇月には「港区在住外国人と区長との懇談会」が開催され、その後平成四年度までは隔年、平成五年度からは毎年実施している。
区の基本計画に国際化という言葉が初めて出てくるのは昭和六二年三月版からである。項目は「国際交流の推進」であった。同年四月には国際化に対応した区政を推進するため文化・国際交流担当の参事(部長級職員)、ならびに文化国際担当を設置した。その後の基本計画では、「コミュニティ」の中で「世界に開かれたコミュニティづくり」という切り口で地域レベルでの国際交流の推進が唱えられた。昭和六二年四月二五日には英字広報紙「ミナトマンスリー」第一号が発刊され、行政情報の多言語化の一歩を進めた。このほか、昭和六三年四月には外国の地方公共団体の機関等に派遣される職員の処遇等に関する規則、平成元年三月には港区外国人相談窓口設置要綱を定め、区役所一階区民相談室で英語による行政サービスに関する相談や身近な生活情報の提供などを同年四月から開始した。平成一四年には外国人相談員の設置も行われた。平成一五年一〇月にはMINATOブランド創造・発信事業「M計画」が開始され、平成二〇年には地域産業振興支援部に国際化推進担当を設置した。
平成四年七月には区民レベルの国際交流を目指して、区の外郭団体として港区国際交流協会が設立された。同協会は人種、宗教、性別、社会体制の相違を超えて、あらゆる人々の相互理解が深められるように、交流の機会を提供し、いきいきとしたふれあいのあるまちづくりに寄与することを目的として設立された。しかし、平成一九年度に「港区外郭団体改革プラン」によって、解散の方向性が示され、同二一年四月からは「一般財団法人港区国際交流協会」として再出発している。同協会では「国際交流から外国人支援」を目標に、「支援」「コミュニケーション」「広報」「交流」および「メンバーシップ獲得」の五つを活動分野としている。
学校教育の分野では港区は平成一七年七月「国際人育成を目指す教育特区」にかかる構造改革特別区域計画が国から認定され、翌年四月から教育特区校小学校八校には「国際科」を設置、中学校七校では英語科の授業数を週に一時間増やし、小・中一環の英語教育課程の実施を目指した取組が始まった。平成一八年八月には港区小中学生海外派遣実施要綱を制定、翌一九年四月には区立全小・中学校で教育特区校としての国際人育成教育を拡大した。国境を越えた、人の移動に対応するため、帰国児童、外国人児童に日本語を習得させる日本語学級を平成三年度から、東町小学校にて外国籍児童に英語で教育を提供する国際学級の取組を同二四年度から始めた。
平成二二年三月、外国人登録人口の増加に伴い、一層の国際化が必要となったことから、区は同年度から五年間の国際化推進施策の方向性を包括的に示す「港区国際化推進プラン」を策定した。これは、港区に住み、働き、学び、訪れる外国人が日本人とともに考え、行動し、支え合いながら、安心して暮らしていける港区ならではの豊かな地域社会を作り上げていくために、区の国際化をさらに進め、外国人への行政サービスを充実させる施策を平成二二年度からの五か年計画として体系的に示している。策定に際しては、外国人のニーズ分析を行うとともに、外国人を含む公募区民などで組織する「港区国際化推進プラン検討委員会」を設置した。
同月には「港区大使館等事業協力実施要綱」を制定し、大使館等が主催する区民対象の文化事業への協力や国際文化紹介展示など大使館等と区民との国際交流の促進を図った。同六月には「港区外国人座談会実施要綱」を制定し、区内の外国人から日常的なサービスに対する要望や意見をうかがい、区から情報を提供する外国人座談会を開催した。平成二七年三月には「港区国際化推進プラン(平成二七年度~平成三二年度)」を策定し、同七月には港区国際防災ボランティアの募集を開始したほか、同八月には「港区外国人に対する生活保護措置実施要綱」を制定した。令和三年(二〇二一)三月には「港区国際化推進プラン(令和三年度~令和八年度)」を策定し、国籍や民族が異なる人々が文化的違いを認め合いながら、一人ひとりの人権を尊重し、地域社会の一員としてともに考え、行動し、支え合う「多文化共生社会の実現」を目指すこととなった。
「多様な文化と人が共生する活力と魅力あふれる成熟した『国際都市・港区』〜多文化共生社会の実現に向けた外国人の地域参画と協働の推進〜」を目指す姿とし、「日本語学習支援の強化」「外国人の地域参画の推進」「新しい生活様式を取り入れた交流・地域参画の実践」の三つの視点を定めた。施策体系として、「外国人の安全・安心の確保に向けた多言語による効果的な情報発信」「日本語学習をきっかけとした外国人と日本人の相互理解の促進」「多様な主体との連携強化による外国人の地域参画の推進」としている。
各施策の主な取組については、外国人の安全・安心の確保に向けた多言語による効果的な情報発信により、防災や医療など生活に必要な情報を「やさしい日本語」をはじめとする多言語で発信することとし、「港区行政情報多言語化ガイドライン」に基づいた行政情報の多言語化、地域社会の共通言語としての「やさしい日本語」の普及、電子媒体による情報発信の推進としてSNSを活用した情報提供、外国人相談事業の充実などを行うこととしている。
また、日本語学習をきっかけとした外国人と日本人の相互理解の促進で、生活者としての外国人の日本語学習支援として基礎日本語教室の設置・運営と日本語学習支援ボランティアの育成、外国人の地域参画に向けた受け入れ環境の整備として、日本人の外国人や異文化に対する理解促進と「やさしい日本語」による外国人と日本人の交流促進、文化理解を通じた国際交流の推進として国際・文化交流拠点の整備を行うこととしている。
多様な主体との連携強化による外国人の地域参画の促進で、大使館等との連携による国際交流、教育関係機関との連携推進として多様な主体との関係構築および連携の推進を行うこととしている。 (中村 仁)