4)夏季日中の気温分布

46 ~ 47 / 111ページ
 夏季日中における東京の気温分布は、第2節第ⅵ項およびコラムで述べる海風の影響を強く受けている。海風と陸風の発生は、温度の日変化の小さい海に対して、陸地は日中に海より高温に、夜間は海より低温になることによる。低温な空気は密度が大きく重いため、低温な空気がある側が高圧部、高温な空気がある側が低圧部となることから、日中の海風は低温な海から陸へ、夜間の陸風は低温な内陸から海に向かって吹く。東京の場合、基本的に海風は南寄りの風、陸風は北ないし西寄りの風である。
 東京湾や相模湾から南寄りの海風が吹走する昼過ぎには、図2-ⅳ-4(Yamato et al. 2017)のように埼玉県南部に高温の極大が認められ、東京では北部ほど高温になる。低温な海上から空気がやってくるため、沿岸部ほど低温で、海風は地表面から加熱を受けて次第に昇温しながら内陸へ侵入する。侵入する海風の先端を海風前線といい、昼過ぎには埼玉県南部に海風前線が到達する。海風前線付近は風速が小さいため、地表面から加熱を受けた高温な空気が滞留しやすく、特に海風前線の内陸側で高温になりやすい。ただし、空気の鉛直運動(下降流に伴う断熱圧縮など)も関わっている可能性があり、上空の詳細な観測が乏しいことから明確な理由は今後の課題である。

図2-ⅳ-4────2006年8月4日の14時と15時(日本標準時)における地上の気温と風系の分布
海風前線を青の点線で、風の収束線を紫の点線で示している。
Yamato, Mikami and Takahashi(2017)による。


 東京付近における気温分布のもう一つの特徴として、埼玉県南部の高温域から都区部南部にかけて高温な領域がくさび状に認められる。これも存在理由が必ずしも明確になっているとはいえないが、次のように考えられる。相模湾からの海風はほぼ南風である一方、港区など東京湾の西側では、東京湾からの海風は少し東風成分を持って吹く。そのため、都区部西部で二つの海風が収束することになる。収束域付近では風速が小さくなり、高温な空気が滞留しやすいことが理由として挙げられる。海風がこの付近で風速を低下させることによる冷やし残しともいえる。