ⅵ 風

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 地域における代表的な気象の状態を捉えることは、中高層建築物が建ち並ぶ都心域ではなかなかに難しい。とりわけ風は近隣の地物の影響を強く受け、風向や風速が大きく変化するため、データの扱いには十分な注意が必要である。ここでは港区の風を記述するにあたり、風の観測高度が地上45mと高く、1976年4月~2009年7月の33年間の観測データを使用できる、かつての東京都常監局である白金局(港区白金2丁目4番4号 東京都職員白金住宅敷地内にあったが、現在は港区高輪1丁目8番地の高輪局として観測)のデータを使用した。
 まず、日変化を含めた風向風速の現れ方を概観するために、図2-ⅵ-1では33年間の通年について、縦軸に時刻、横軸に風向を取り、各時刻における風向の頻度(%)を四角の色の塗り分けで、また風向ごとに集計した風速の平均値(m/s)を等値線によって示した。通年においては、北を主にして北北西から北北東の頻度が高く、午後から夕方では南東から南の風向も比較的多いことが分かる。北寄りの風の風速は、午後から夕方に多少大きくなるものの、概ね3m/s程度である。南寄りの風については、午前中は南東の風向が多いが、次第に風向が南に変化する。南寄りの風の風速も、午後から夕方にかけて5m/s程度に大きくなるが、最も大きい風速は、風向頻度がそれほど大きくない南南西である。現れやすい風向が時刻によって変化することから、南寄りの海風と北寄りの陸風の交替を捉えていると考えられるが、港区における北寄りの風には冬季の季節風も含まれている。

図2-ⅵ-1────港区(東京都の常監局であった白金局)における通年の時刻別風向頻度(a)と時刻・風向別平均風速(b)
統計期間は1976~2008年度。
港区の資料により作成。


 以上は年間を通した特徴であるが、これを月ごとに集計すると、南寄りの風は夏季と春季に高頻度で現れる。図2-ⅵ-2では、概ね冬春夏秋にあたる月(a,b:1月、c,d:4月、e,f:8月、g,h:10月)について示した。これによると、北寄りの風は冬季(a:1月)に終日高頻度で認められ、これには西高東低冬型気圧配置に伴う北寄りの季節風が含まれている。逆に春季(c:4月)や夏季(e:8月)は南寄りの風の頻度が高い。夏季においては、午前中から午後にかけて、風向が南東から南に変化することが明瞭に読み取れる。また、深夜になっても南風の頻度が高く、終日南風が卓越し、北寄りの陸風が現れない場合もある。日中における南寄りの風の風速は、冬季(b)や秋季(g)に比べて春季(d)や夏季(f)に大きくなる。

図2-ⅵ-2────図2-ⅵ-1と同様。ただし、1月の風向(a)と風速(b)、4月の風向(c)と風速(d)、
8月の風向(e)と風速(f)、および11月の風向(g)と風速(h)について。
東京都の資料により作成。


 以上のように、日々の毎時風向を長期間集計し、季節別・時刻別の風向頻度を調べると、港区における風系は、基本的に昼夜で風向が変化する海陸風の特徴が現れている。そこで、海陸風の性質を調べるため、以下のように海陸風日を定義した。図2-ⅵ-1aにおいて、夜間(陸風)の頻度上位2風向は北と北北西で、両者の合計頻度は06時に最大となる。同様に日中(海風)には頻度上位2風向が南南東と南で、両者の合計頻度は16時に最大となる。そこで、夜間の陸風は風速が小さいことも考慮し、06時の風向が北もしくは北北西または静穏で、16時には南南東もしくは南、さらに翌06時に再び北もしくは北北西または静穏となる場合を、1日の中で海風と陸風が交替する海陸風日として33年間のうちから抽出した。図2-ⅵ-3には、抽出した海陸風日(01~翌06時)をもとに、風ベクトルの月別・時刻別の平均を示した。また、ある場所における海風や陸風それぞれの風向は概ねいつも共通しているが、風系の交替時には風速が弱くなり風向のばらつきが大きくなる。このことを考慮し、風向の定常性を調べることによって、海風や陸風の吹走する概略の時間帯もしくは風系の交替時刻の把握を試みた。風向の定常性の指標C (%)として、単純に風速を平均した値(スカラー平均)に対するベクトル平均による風速の比(百分率)を求め、その大小を灰色の濃淡によって図2-ⅵ-3に示してある。なお、C は0≦C ≦100(%)の値をとり、C =100(%)の場合は風向が常に一定であり、値が小さいほど風向のばらつきが大きいことを意味する。

図2-ⅵ-3────海陸風日(本文参照)の白金局(旧東京都常監局一般局)における月・時刻別の平均風ベクトル
および風向の定常性を表す指標

▼は海陸風日を抽出するために風向の条件を設定した時刻を示す。事例日の選択期間は1984~2010年。
東京都常監局の資料により作成。


 図2-ⅵ-3において、定常性が極小となる時間帯を風系の交替時刻とみなすと、夕方から夜における海風から陸風への交替は、季節による変化が大きく、晩秋から冬季には20時頃であるが、夏季には24~01時頃と遅い。陸風から海風への交替時刻は、夏季は10時頃で、冬季にはやや遅くなり12~13時頃である。したがって、夏季には海風の吹走時間が長く冬季には陸風の吹走時間が長いことになる。宮田(1982)によれば、広島など瀬戸内海沿岸における海風の吹走時間帯は、5月頃に最長、11月頃に最短となるが、港区においてはこれと多少異なり、夏季に長く、冬季に短い。また、風速についても陸風は夏季に比べて冬季に風速が大きく、海風は夏季に風速が大きい。海風の風向は午前には東風成分がやや大きく南南東~南東であるが、午後から夕方にかけて次第に東風成分が小さくなり、風向はほぼ南となる。海陸風の特徴については、後述のコラム(海陸風の交替時刻)において、やや大きい空間スケールから論じたので合わせて参照願いたい。