ⅷ 大気汚染

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 大気汚染とは、人間活動や自然現象に起因して大気が有害物質で汚染され、人体や動植物などに悪影響が出るような状態、あるいはそれらの生活環境が悪化した状態をいう。日本では、1950~1970年代前半の高度経済成長期に大気汚染が深刻で、石油化学コンビナートから排出された硫黄酸化物(SOX)による四日市ぜんそくや、京浜工業地帯の川崎公害などの大気汚染被害が発生した。また、1970年7月には、杉並区や世田谷区で、初めて光化学スモッグ(光化学オキシダント)による被害が報告された。このような状況を踏まえ、大気汚染物質の排出源に対する様々な規制や法整備が行われてきた。
 1955年に東京都は「ばい煙防止条例」を制定し、排出される黒煙の指導を工場などに対して実施した。1968年に制定された大気汚染防止法の強化などに伴い、工場には脱硫装置等の取り付けが、自動車に関しては燃焼系統の改善や燃料の高品質化がすすみ、二酸化硫黄(SO2)などの硫黄酸化物(SOX)を中心に一定の改善がみられた。大気汚染防止法の第22条では、都道府県知事に大気汚染状況の常時監視を義務付けており、本稿でも資料を用いている自治体常監局等による計測が全国的に展開された。図2-ⅷ-1は、都区部にある常監局(一般局)で平均した、1970年代ないし1980年代以降における主な大気汚染物質濃度の年平均値を経年変化として示している。

図2-ⅷ-1────東京都区部における主な大気汚染物質濃度年平均値の経年変化

国立環境研究所環境数値データベース(https://www.nies.go.jp/igreen/)の東京都における大気汚染常時監視測定局の月間値・年間値データをもとに、都区部にある一般局の年平均値を年度毎に平均した。
なお、OXについては昼間(6~20時)の1時間値の年平均値を用いている。


 1993年11月の環境基本法の制定に伴い、主な大気汚染物質として二酸化窒素(NO2)、浮遊粒子状物質(SPM:Suspended Particulate Matter)、光化学オキシダント(OX)、二酸化硫黄(SO2)、ならびに一酸化炭素(CO)について環境基準(環境省告示「大気の汚染に係る環境基準について」)が設けられた。一方で自動車台数の増加などもあり、NO2やSPMについては下げ止まりの状態が続いた。その後、2003年10月から施行された南関東の八都県市(東京都、埼玉県、千葉県、神奈川県、千葉市、横浜市、川崎市、さいたま市)によるディーゼル車走行規制や、国の「自動車から排出される窒素酸化物及び粒子状物質の特定地域における総量の削減等に関する特別措置法」(自動車NOX・PM法)の改正などにより、近年では大部分の測定局で環境基準を概ね満足するようになった。
 ところがOXについては、いったん濃度が低下したものの、再び緩やかな上昇している(図2-ⅷ-1)。環境基準を満たしていない測定局が多く、光化学スモッグ注意報・警報が依然として頻繁に発せられる状態が継続している。また、近年では、燃焼や大気中の化学反応によって形成される微小粒子状物質(PM2.5)が、呼吸器系疾患や肺がんリスクの上昇などの点から注目されるようになり、東京都や港区の測定局では常時監視が行われている。
 以下では代表的な汚染物質(NOX、SPM、OXおよびPM2.5)について、それぞれの概要とともに、港区の環境総合測定局大気常時監視システムで計測された2000(PM2.5は2013)~2018年の資料に基づき、汚染物質濃度の季節変化と時間変化の特徴を示す。なお、東京都や港区の測定局には、一般環境大気測定局(一般局)と自動車排出ガス測定局(自排局)がある(表1)。一般局は環境大気の汚染状況を常時監視する測定局で、主として住宅地等に設置されている。自排局は自動車走行による排出物質に起因する大気汚染状況を常時監視する測定局で、大気汚染が懸念される交差点やバイパスなどの幹線道路周辺に設置されている。東京都の測定局(常監局)には、ほかに立体局としてスカイツリー(2019年途中までは東京タワー)と、汚染物質の排出源から離れたバックグラウンドの計測点として檜原局がある。
 港区が設置する測定局は、赤坂局(自排局)、麻布局(一般局)、一の橋局(自排局)、芝浦局(自排局)、および港南局(一般局)の5か所であり、いずれも2000~2018年の19年間のデータを使用した。以下では、一般局と自排局の別、ならびに地理的位置(台地側か臨海部か)などの点から考察を加える。なお、東京都が設置する常監局(一般局)として、現在、高輪局と台場局があるが、いずれも2011年前後に移転し観測場所が変わっているためここでは用いていない。