2)新生代と氷河時代の開始

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 哺乳類の時代となった約6,600万年前以降の新生代は、その前半の約5,500万年前頃を中心にきわめて温暖であった。これは海中のメタンハイドレートの分解により、温室効果ガスであるメタンガスが大量に放出されたことによる可能性がある。その後気温は低下傾向となり、3,800万年前頃には南極大陸には氷河が現れ始め、約275万年前には北半球にも氷河が出現した。このような温度変化は、南極大陸やグリーンランドの大陸氷河、あるいは海底に堆積した有孔虫化石の酸素同位体比から調べられている(図3-ⅰ-2)。すなわち、海水(H2O)を構成する酸素には、軽い16Oと少量の重い18Oがあり、重い18Oは蒸発しにくい。そのため、氷床が拡大する寒冷な時期には、海水には重い18O(氷床には軽い16O)が多くなる。海水中の有孔虫は海水を使って石灰質の殻を作るが、この殻には水温が低いほど、また海水に18Oが多いほど多くの18Oが取り込まれるので、有孔虫化石の酸素同位体比18O/16Oは氷期に大きく間氷期に小さくなる。なお、図3-ⅰ-2のδ18Oは標準とする海水の酸素同位体比からの偏差を意味している。

図3-ⅰ-2────世界57か所における海底有孔虫化石の酸素同位体比(δ18O)から得られた温度変化
(a)532万年前以降、(b)100万年前以降の拡大図。
Lisiecki and Raymo(2005)の資料により作成。


 このような寒冷化は、新生代になるとプレート衝突によってヒマラヤ・アルプス山脈、アンデス山脈、ロッキー山脈など新期造山帯の隆起が活発化し、岩石の溶解を伴う化学的な風化作用によって大気中のCO2が除去されていったこと、また気温の低下が海水温の低下をもたらし、海中に溶解するCO2が増加したことで、大気中の温室効果ガス濃度がさらに低下したことが考えられる。これにより地球上に氷河の存在する氷河時代となった。図3-ⅰ-2aをみると、温度の低下とともに周期的な変動の振幅が大きくなり、さらに次第に変動の周期が長くなっていることが読み取れる。約258万年前以降の第四紀更新世は、気候の変動幅が大きく、氷期と間氷期が繰り返し現れる時代である。
 このような気候の周期的変動を説明する考え方として、ミランコビッチ(Milutin Milanković)が1920年代に提唱した地球の公転軌道の離心率(太陽の周りを地球が公転する軌道の楕円の度合い)、自転軸(地軸)の傾き、および自転軸の歳差運動(回転しているコマが首を振るような運動)という三つの変化に起因する日射量の変動がある(Milanković 1930)。図3-ⅰ-2などの酸素同位体比による温度指標と、ミランコビッチによる日射量変化の対応が良いことから、1970年代になってこの考え方が注目されるようになった。ただし、酸素同位体比による寒暖の周期的変動には、41万年、10万年、4.1万年、2.3万年、1.9万年などの周期成分が含まれるが、ミランコビッチ説による日射量変動には10万年の周期成分が明瞭でなく(伊藤・阿部 2007)、また必ずしも変動が並行しない場合もある。そのため、海流や大地形、大気成分などの非線形効果を含めた氷期-間氷期サイクルの解明が必要とされている。
 最も新しい氷期(最終氷期)は、約2万1,000年前を最盛期とし、その後は急な温暖化が進行して(図3-ⅰ-2b)、世界の平均気温が1万年間で3~8℃上昇した。ただし、ヨーロッパなどの高緯度地域を中心に、2,000年間程度の寒冷な時期が存在し、これをヤンガー・ドライアス(Younger Dryas)期という。この寒冷期が終了した約1万1700年以降は第四紀完新世に区分される。