1)気温

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 図3-ⅱ-1は1876年以降における、日最高(赤)・日平均(緑)・日最低気温(青)について、年平均値(a)、冬季として1月(b)ならびに夏季として8月(c)の年々の値を示している。また、直線は年次に対する回帰直線を、太線は11年移動平均値を表している。なお、日最高・日平均・日最低気温の経年変化の大きさとして、回帰直線の傾きから得られる100年あたりの気温変化量(℃/100年)を数値で示している。図3-ⅱ-1によれば、日最高・日平均・日最低気温のいずれについても明瞭な気温の上昇傾向が認められ、冬季の方が夏季に比べて気温上昇が大きい。また、一般的に気温の上昇傾向は、日最低気温の方が日最高気温よりも大きい。東京における8月の日最高気温は100年あたり約1.4℃の上昇であるが、1月の日最低気温は100年あたり4℃程度上昇している。このような傾向は多くの大都市に共通しており、都市気候(都市ヒートアイランド現象)と地球温暖化の影響が合わさった結果と考えられる。

図3-ⅱ-1────東京(気象庁)における年平均(a)、
1月平均(b)および8月平均(c)の日平均、日最高および日最低気温の経年変化

色付きの●印は大手町(2014年まで)、×印は北の丸公園(2015年以降)の観測値であることを示す。直線は2014年までの年次に対する回帰直線で、太線は11年移動平均値を表す。数値(℃/100年)は回帰直線の傾きとして得られる100年あたりの気温変化量を示す。気象庁資料により作成。


 図3-ⅱ-1の回帰直線で示されるように気温は基本的に上昇傾向にある。しかし、年々の値を平滑化した11年移動平均値の時系列によると、数十年スケールの気温変動が読み取れ、実際の経年変化は必ずしも回帰直線のように単調ではない。20世紀の前半(1920~1950年頃)は特に日最低気温の低い時期となっており、19世紀末頃と比較して気温の上昇傾向はあまりみられない。19世紀末~20世紀初頭は、江戸時代から引き続く前出の小氷期の末期にあたり、世界的にも気温が低い時期であった。その後に東京の気温上昇割合は大きくなったが、全球平均気温の年平均値(図3-ⅱ-2)においては、1940年代にやや気温の高い時期があり、1970年頃にかけて気温は横ばいかやや低下傾向であった。全球平均気温の上昇傾向が大きくなったのは1970年代からである。地球温暖化の現れとして、長期的には気温は上昇傾向にあるが、数十年スケールでみると地域によって気温の変化傾向には差異が存在する。

図3-ⅱ-2────全球平均気温年平均値の経年変化(1891~2018年)

全球平均気温の年平均値は1981~2010年の30年平均値からの偏差によって表現されている。黒丸が年々の値で、赤線はその11年移動平均値、青線は年次に対する回帰直線であり、全球平均気温の年平均値は100年あたり約0.7℃の上昇傾向を示している。気象庁資料により作成。


 気温の長期変化を捉える際に、図3-ⅱ-1では月や年の平均気温をもとにしたが、一定の気温以上もしくは未満となった日数を指標にする場合もある。たとえば、日最低気温が0℃未満となった冬日について、図3-ⅱ-3aでは東京における年間日数の長期変化を示している。赤線の11年移動平均によれば、期間の最初(1880年前後)に冬日日数が多く、その後は1940年頃まで年々の増減はあるものの概ね年間60日程度の冬日が現れていた。しかし1940年代半ば以降、冬日日数の減少傾向が著しく、1990年頃以降は平均3日程度で、冬日が現れない年も散見されるようになった。なお、日最高気温が0℃未満の真冬日は、これまで東京では4日しかなく、最近の記録は1967年2月12日まで遡る。このような冬季の低温日に対し、夏季の高温日として熱帯夜(夕方から翌日の朝までの最低気温25℃以上)、夏日(日最高気温25℃以上)、真夏日(同30℃以上)および猛暑日(同35℃以上)がある。図3-ⅱ-3b~dにそれぞれの日数の長期変化を示した。熱帯夜(図3-ⅱ-3b;ここでは日最低気温25℃以上の日として集計)は、1920年代までは半数近くの年で年間に1日も現れていないが、最近の10年間では平均して年間に35日程度現れており、特に2010年には56日も現れた。日中の高温に関し、図3-ⅱ-3cでは、日最高気温25℃以上(夏日)のうち、同30℃以上(真夏日)の日数を黒(緑)色の塗りつぶしで示しており、白抜きの部分は25℃以上30℃未満の日数を表している。また、図3-ⅱ-3dは日最高気温35℃以上(猛暑日)の日数であり、これは図3-ⅰ-1cの真夏日日数に内数として含まれている日数である。図3-ⅱ-3c、dによれば、25℃以上30℃未満の日数は60日程度で長期的な変化は認められないが、日最高気温30℃以上の真夏日や35℃以上の猛暑日は顕著な増加傾向にある。日々の気温の現れ方が高温側にシフトした結果と考えられ、東京においては1990年代中頃以降、図3-ⅱ-3dにみられるように極端な高温(猛暑日)の日数が多くなっている。

図3-ⅱ-3────東京(気象庁)における年間の冬日(日最低気温0℃未満)(a)、熱帯夜(同25℃以上)
(b)、夏日(日最高気温25℃以上)・真夏日(同30℃以上)(c)、および猛暑日(同35℃以上)(d)日数の経年変化

棒グラフが年々の値で、黒色が大手町(2014年まで)、緑色が北の丸公園(2015年以降)の観測値であり、赤線は2014年までの11年間移動平均を表す。(c)の棒グラフは、日最高気温25℃以上(夏日)のうち、同30℃以上(真夏日)の日数を黒(緑)色の塗りつぶしで表している。したがって、白抜きの部分は25℃以上30℃未満の日数であり、その11年移動平均を赤破線で示している。なお、熱帯夜は夜間の最低気温が25℃以上のことを指すが、ここでは日最低気温25℃以上の日数を熱帯夜日数としている。観測場所が北の丸公園に移転したのは2014年12月2日であるが、2014年12月の値は便宜的に大手町の2014年の値に含めて集計している。気象庁資料により作成。