2)降水

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 東京の降水に関する経年変化として、図3-ⅱ-4には降水量や降水日数、強雨の現れ方などについて年々の値(黒丸、緑丸)とその11年移動平均値(赤線、青線)を示した(黒丸・赤線は左側の縦軸を、緑丸・青線は右側の縦軸を参照)。図3-ⅱ-4aは年降水量と年間の降水日数の経年変化を示しており、北の丸公園内への観測場所移転に際しても、統計は切断されていないため1876~2018年の期間を表示している。年降水量の最少は879.5mm(1984年)で最大が2229.6mm(1938年)と年々の変化幅が大きい。また、図示した約140年間において、年降水量や年間の降水日数には、気温(図3-ⅱ-1)のような統計的に有意となる一方的な増減の傾向は認められない。ただし、11年移動平均値によると、年降水量には19世紀末(1890年前後)や1960~1980年代前半の降水量が少ない時期、1910~1920年代や1950年代、また近年にかけての降水量の多い時期が認められ、数十年スケールで増減している。降水量と降水日数は必ずしも平行して変化しておらず、1950年代の極大は両者が一致するが、1910年代の年降水量の極大は降水日数の極大よりも遅れて現れている。また、1980年前後から年降水量は増加傾向にあるものの降水日数はほぼ横ばいとなっており、このことは降水の強さの変化を示唆している。すなわち、ある期間の総降水量は、その期間の降水の発生頻度だけでなく、発生した降水の強弱の現れ方によっても変化する。

図3-ⅱ-4────東京(気象庁)における降水特性の経年変化(1876~2018年)

a)年降水量(黒丸:年々の値、赤線:11年移動平均)と年降水日数(緑丸:年々の値、青線:11年移動平均)。
b)年最大24時間降水量(黒丸:年々の値、赤線:11年移動平均)と年最大1時間降水量(緑丸:年々の値、青線:11年移動平均)。
c)日降水量50mm以上の年間日数(黒丸:年々の値、赤線:11年移動平均)と降水日の平均値降水量(緑丸:年々の値、青線:11年移動平均)。
d)全国のアメダスにおける1時間降水量50mm以上の年間発生回数(アメダス1300地点あたりに換算した値)の経年変化(1976~2019年、赤線は年次に対する回帰直線で右上に変化傾向の大きさaと相関係数Rを示す)。
2014年12月に観測場所が北の丸公園内に移転したが、降水の統計は切断されていない。
気象庁資料により作成。


 図3-ⅱ-4bには、そのような降水特性の指標として、まとまった降水があったと認識される日降水量50mm以上の日数と、1降水日あたりの平均降水量(年降水量/年間降水日数)の年ごとの値を示した。両者の経年変化は類似しており、1900年前後や1960~1980年代においては、まとまった降水が少なく、1降水日あたりの降水量も少ない弱雨傾向であったことが分かる。一方、1910~1940年代および近年は強雨傾向となっている。これと同様な傾向は、統計期間がやや短いが、図3-ⅱ-4cに示した年間最大の24時間降水量や1時間降水量のような極端な降水量の現れ方にも認められる。このように長期間の降水特性を調べると、東京の降水の強弱は数十年スケールの長期変化をしている(高橋 2003,Kanae et al. 2004)。近年、地球温暖化との関連からの強雨の増加が指摘されるが、たとえば国内の多数の気象庁アメダスから解析される日本の強雨の増加傾向(図3-ⅱ-4d)は、データ期間が1970年代の弱雨傾向から近年の強雨傾向に変化する時期にあたっており、地球温暖化のようなグローバルな気候変化を反映しているか、周期的な気候変化の一部なのか今後の十分な吟味が必要とされる。