東京における大規模な水害は、カスリーン台風(1947年)、キティ台風(1949年)や狩野川台風(1958年)などによって発生している。東京都建設局の資料によれば、利根川の堤防決壊(カスリーン台風)、東京湾の高潮(キティ台風)、山の手の中小河川氾濫(狩野川台風)によって、東京都では、それぞれ床上浸水家屋は80,041戸、73,751戸、123,626戸、床下浸水家屋が45,167戸、64,127戸、340,404戸、また死傷者は11人、122人、203人ときわめて大きい被害が発生した。第二次世界大戦後から1960年前後には、枕崎台風(1945年)、アイオン台風(1948年)や伊勢湾台風(1959年)などにより、日本各地で台風による大きな災害が発生した。このような風水害への対策として、高度経済成長期には大河川の堤防や防潮堤が格段に整備され、また下水道等の排水設備の能力向上が大きく進展した。
このような防災に関わる基盤整備が全国的に進展した結果、経年的にみれば風水害による被害は有意に減少している(牛山 2017)。その一方で、傾斜地への生活圏の拡大や都市化に伴う水害の変容(都市型水害)などにより、災害発生の突発性、意外性、局地・小規模化など、風水害の「ゲリラ性」が強まった(倉嶋 1977)ことが1970年代以降に指摘されるようになった。また、東京の都市域では、周囲に比べて強い降水の割合が増大している可能性が指摘され(Yonetani 1982)、積乱雲の発達など短時間強雨(第2節第ⅲ項「降水」参照)の発生に関わる都市の影響(藤部 2004,三上ほか 2005,高橋ほか 2011など)が議論されるようになった。この間、1999年7月21日(練馬豪雨)や2008年8月5日(雑司が谷豪雨)では、1時間降水量が100mmを超える短時間強雨があり、それぞれ数百棟に及ぶ床上・床下浸水だけでなく、前者では水圧でドアが開かなくなった地下室に閉じ込められて、後者では工事中の下水道の急激な増水によって犠牲者が発生した。毎夏のように道路冠水とともに落雷による停電や鉄道の運休などが発生し、都市活動や市民生活への影響が大きいことから、都市の短時間強雨は社会的にも関心の高い気象現象と認識されるようになった。2008年の新語・流行語大賞トップ10に選ばれたこともあり、積乱雲に伴う局地的で予測が難しい突発的な強雨を指す俗語として「ゲリラ豪雨」が広まった。