◎大気現象の時間・空間スケール

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大気現象を考える際の重要な概念に、現象の空間的な広がりを表す空間スケールと、現象の変化に関する代表的な時間の長さを示す時間スケールがある。本章の冒頭でも述べたように、大気中には竜巻や海陸風、台風、モンスーンなどのさまざまな大気現象が存在しており、本稿でも積乱雲や海陸風、都市気候としてヒートアイランド現象など各種の大気現象を扱ってきた。ここでは様々な大気現象を時間スケールと空間スケールの観点から整理してみたい。とはいえ現実の大気現象について、スケールを厳密かつ統一的に定義することは難しく、たとえば小倉(2016)などは次のように考えている。空間スケールとしては、その現象が影響を及ぼす水平的な範囲や、移動性高気圧・低気圧のように空間的に並んでいる現象ならば隣り合った同士の距離などを考える。時間スケールについては、発生から消滅までの寿命や、出現・強弱を繰り返すのであればその周期、また移動する現象ならば通過に要する時間などを考える。このような考え方に基づく各種大気現象の代表的な空間スケールと時間スケールを示したものが図(6)である。時間・空間スケールの区切り方などに関してはOrlanski(1975)などを参考にして、なじみ深い気象現象(気象擾乱)を取り上げて記載している。

図(6)────各種大気現象の空間スケールと時間スケール
なお、総観スケール以上をマクロスケールということがある。
Orlanski(1975)をもとに加筆修正。


図(6)によると、各種の大気現象はほぼ図の対角線上に並んでいることが分かる。空間スケールの小さい(大きい)現象は時間スケールも短く(長く)、個々の大気現象は固有の空間スケールと時間スケールを有している。竜巻は分単位の時間に100m単位の範囲(ミクロスケール)に影響を与える。積乱雲1個は数~10kmの大きさ(メソγスケール)で寿命は1時間程度であるが、発達した積乱雲が数十kmの範囲(メソβスケール)の集団を成すと数時間~日の期間の集中豪雨をもたらす。台風の大きさ(たとえば強風域)は数百km(メソαスケール)であり、これは春秋の天気を周期的に変化させる移動性高気圧や低気圧(総観スケール)と比べて一段階小さい空間スケールである。1日を周期として交替する海陸風は、数十~数百kmの空間スケール(メソβスケール)であるが、1年周期のモンスーンや数年周期のエルニーニョ現象の影響は1万km以上(惑星(プラネタリー)スケール)に及ぶ。