4)自然教育園以外の維管束植物

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 既存文献の調査では123科625種が、平成21年度に実施された「港区生物現況調査(第2次)報告書」では130科637種が確認されている。
 自然植生を反映した維管束植物としては、ヤブツバキクラス域の構成種が確認できる。すなわち、シラカシ群集の表徴種であるアサ科のエノキやニレ科のケヤキ(写真2-ⅰ-7)など、スダジイ-ヤブコウジ群集のブナ科のスダジイやオシダ科のヤマイタチシダなど、タブノキ-イノデ群集のクスノキ科のタブノキやオシダ科のイノデ(写真2-ⅰ-8)など、さらにトベラ-マサキ群集のツバキ科ヤブツバキなどである。

写真2-ⅰ-7────ケヤキ

写真2-ⅰ-8────イノデ


 その一方で、都市的な環境に強い種も確認されている。路傍や広場などではキク科のヨモギやノゲシ(写真2-ⅰ-9)、ハルジオン(写真2-ⅰ-10)、ツユクサ科のツユクサ、カタバミ科のカタバミなどがみられる。建物や植栽の陰で少し湿度の高い環境にはイワデンダ科のイヌワラビやヒユ科のヒカゲイノコヅチ、ドクダミ科のドクダミが記録されている。さらに臨海部では、セリ科のハマウドやヒルガオ科のハマヒルガオ(写真2-ⅰ-11)、カヤツリグサ科のハマスガ、ツルナ科のツルナ(写真2-ⅰ-12)などが生育している。

写真2-ⅰ-9────ノゲシ

写真2-ⅰ-10────ハルジオン

写真2-ⅰ-11────ハマヒルガオ

写真2-ⅰ-12────ツルナ


 第2次生物現況調査で確認された重要種は8科10種である。そのうち、環境省RLで絶滅危惧Ⅱ類VUに指定されているのがラン科のキンラン(写真2-ⅰ-13)である。また、マチン科のアイナエは東京都RDBでは区部で絶滅EXとなっているが、説明では「各地の公園などに生育するが場所は芝草地などに限られる」とされている。ほかには環境省の準絶滅危惧NTが2種(ゴマノハグサ科のカワヂシャ(写真2-ⅰ-14)とマツバラン科のマツバラン)と東京都の絶滅危惧Ⅱ類VUとしてハナヤスリ科のコハナヤスリや情報不足DDとしてウラボシ科のマメヅタなど6種が確認されている。これら10種のうち、カワヂシャやマツバランなどの6種は既存の文献では記録がなく、第2次生物現況調査で初めて確認されている。

写真2-ⅰ-13────キンラン

写真2-ⅰ-14────カワヂシャ


 第2次生物現況調査で明らかにされた外来種は146種にのぼる。このうちゴマノハグサ科のオオカワヂシャ(写真2-ⅰ-15)とウリ科のアレチウリの2種は外来生物法の特定外来生物に指定されている。またキク科のセイタカアワダチソウ(写真2-ⅰ-16)とセイヨウタンポポ(写真2-ⅰ-17)(外来性タンポポ種群として)、ミズアオイ科のホテイアオイなどは外来種リストの重点対策外来種に、キク科のヒメジオンなどはその他の総合対策外来種に指定されている。

写真2-ⅰ-15────オオカワヂシャ

写真2-ⅰ-16────セイタカアワダチソウ

写真2-ⅰ-17────セイヨウタンポポ


 外来種の種数÷[確認種数-植栽種数-逸出種(植栽の管理下から外れて野生化した種)数]×100を帰化率というが、港区全体では28.1%であった。東京都区部の目黒区(25.7%)や練馬区(23.1%)、あるいは杉並区(18.1%)に比べると少し高い。この理由の一つは、都市化がすすんで、生態系や群集あるいは個体群の構造を乱すような撹乱、あるいは乾燥や貧栄養土壌などのような植物の生育にとって劣悪な立地が増え、そこに外来種が入り込んだことによる。さらに臨海部に位置することから、海外からの人や物の移動がかなり多く、外来種の侵入する機会が多いことも理由にあげられる。
 実際に港区内で帰化率の高い場所は、お台場海浜公園の39.4%、埋立て地にある東京海洋大学敷地の36.7%、三田台公園の35.1%、高浜運河沿い緑地(写真2-ⅰ-18)の31.9%、六本木ヒルズの屋上緑地の30.4%であった。一方、帰化率の低い場所は、愛宕神社の斜面樹林地の8.9%、有栖川宮記念公園の14.2%、三菱関東閣の15.1%などで、古くから残されている神社や公園である。

写真2-ⅰ-18────高浜運河沿い緑地


 平成21年度(2009)に実施された第2次港区生物現況調査では、昭和63年度(1988)に実施した第1次調査や1979~1990年に実施されたいろいろな調査をまとめて「20年前」として、その経年変化を示している。ただし、調査地点等が異なるので、調査した地点に対する対象種が出現した地点の割合を比較している。
 20年前にすべての調査地点で出現し第2次生物現況調査では90%以上という高い出現率を示した種は13種で、これらは路傍の光が十分に当たる場所からやや日陰に生育する種が多かった。草本ではドクダミやツユクサ(写真2-ⅰ-19)、ブドウ科のツタ(写真2-ⅰ-20)(ナツヅタとも呼ばれる)、木本ではアサ科のムクノキ(写真2-ⅰ-21)やトウダイグサ科のアカメガシワなどである。外来種でもキク科のオオアレチノギク(写真2-ⅰ-22)などが該当する。

写真2-ⅰ-19────ツユクサ

写真2-ⅰ-20────ツタ

写真2-ⅰ-21────ムクノキ

写真2-ⅰ-22────オオアレチノギク


 20年前にはふつうにみられた種で第2次生物現況調査では確認されなかった種というのはなかった。しかし、20年前にはすべての地点で出現したが、第2次生物現況調査では1、2地点でしか確認できなかった種には、樹林地に生育するイノデやキジカクシ科のオモト、およびショウガ科のミョウガの3種があげられる。
 20年前に確認されていた14種の重要種のうち、第2次生物現況調査で確認されたのはオシダ科のトウゴクシダ(東京都RDBの区部で情報不足DD)1種であった。共通の調査地点である旧芝離宮恩賜庭園では、20年前にはキク科のオナモミ(環境省RLでは絶滅危惧Ⅱ類VUに指定されているものの、東京都RDBの区部では絶滅EXになっている)など6種の重要種が確認されているが、第2次生物現況調査では1種も確認されていない。こうした減少あるいは消失した可能性の高い種の多くは湿地や樹林に生育することから、この20年ほどで港区内の湿地や樹林が減少したこと、あるいは樹林の乾燥化がすすんだことが懸念される。
 一方、20年前には記録されていないが、第2次生物現況調査で確認されたのは在来種で106種、外来種で84種にのぼった。しかし、今回の調査地点19地点のうち、ほぼ半分の9地点以上で確認されたのは在来種3種、外来種4種でしかなく、これらの種が新たに港区内に侵入したかどうかの判断は難しい。今回の調査地点すべての場所で確認されたのは北アメリカ原産のカタバミ科のオッタチカタバミだけであった。次いで10地点で確認されたのはキク科のチチコグサ(在来種)と南アメリカ原産のイネ科のシマスズメノヒエ(外来種リストのその他の総合対策外来種に指定されている)の2種である。なお、帰化率は20年前が17.4%に対して第2次生物現況調査では28.1%であった。