第2次生物現況調査で確認された昆虫・クモ類は、多様な生息環境を反映している。樹林でみられるのはコガネムシ科のカナブンやカブトムシ(写真2-ⅱ-1)、カミキリムシ科のリンゴカミキリのような甲虫だけではなく、アゲハチョウ科のアオスジアゲハ(写真2-ⅱ-2)などが出現する。草地ではコオロギ科のシバスズやヘリカメムシ科のハリカメムシ、バッタ科のショウリョウバッタ、テントウムシ科のナナホシテントウ(写真2-ⅱ-3)などが確認されている。イトトンボ科のアジアイトトンボ(写真2-ⅱ-4)やトンボ科のコシアキトンボ(写真2-ⅱ-5)、ヤンマ科のギンヤンマ、あるいはアメンボ科のアメンボ(写真2-ⅱ-6)やヒメアメンボは公園の池でみられる。花壇やバラ園には、アゲハチョウ科のクロアゲハやシジミチョウ科のルリシジミ(写真2-ⅱ-7)、ミツバチ科のキムネクマバチ(写真2-ⅱ-8)、コガネムシ科のコアオハナムグリ(写真2-ⅱ-9)など、訪花性の昆虫がやってくる。水辺や湿った草地ではヒシバッタ科のハネナガヒシバッタが、海辺の砂浜にはゾウムシ科のハマベキクイゾウムシなどが生息している。海岸近くの潮溜まりではゲンゴロウ科のチャイロチビゲンゴロウが確認されている。
写真2-ⅱ-1────カブトムシ
写真2-ⅱ-2────アオスジアゲハ
写真2-ⅱ-3────ナナホシテントウ
写真2-ⅱ-4────アジアイトトンボ
写真2-ⅱ-5────コシアキトンボ
写真2-ⅱ-6────アメンボ
写真2-ⅱ-7────ルリシジミ
写真2-ⅱ-8────キムネクマバチ
写真2-ⅱ-9────コアオハナムグリ
これまでに港区で記録のある重要種は、第2次生物現況調査で実施していない自然教育園や赤坂御用地も含めて、44科141種であった。このうち環境省RLで指定されている重要種は、第2次生物現況調査では確認できなかったが、21種が該当する。これら21種のうち、トンボ科のオオキトンボ(絶滅危惧IB類EN)やゲンゴロウ科のコガタノゲンゴロウ(絶滅危惧Ⅱ類VU)などの14種については、1990年以降の20年間に港区からの記録がない。これらの種は、全国的にも希少種であり、港区に生息している可能性は極めて低いものと考えられる。しかし残りの7種については、第2次生物現況調査では確認できなかったものの、港区の生息環境に大きな変化がなければ、今後、生息を確認することができると期待される。
東京都RDBに記載されている重要種は、環境省RLと種は重複するが、126種になる。このうち16種については1990年以降の記録がなかった。残りの110種については、港区で生息している可能性はある。しかし、第2次生物現況調査で確認されたのは、トンボ科のハラビロトンボ(区部で絶滅危惧Ⅱ類VUに指定されている)やオニヤンマ科のオニヤンマ(写真2-ⅱ-10)(区部で準絶滅危惧NT)などの24種だけである。
写真2-ⅱ-10────オニヤンマ
これまでに港区で記録のある外来種は44科63種である。このうち、シロチョウ科のモンシロチョウやコオロギの仲間のカンタン、チャバネゴキブリ科のチャバネゴキブリなどの17種は、古くから日本に侵入し日本全国に分布している。一方、マツムシ科のアオマツムシやアブラムシ科のセイタカアワダチソウヒゲナガアブラムシ、タテハチョウ科のアカボシゴマダラ(写真2-ⅱ-11)など25種は分布を拡大している種である。特にアカボシゴマダラは、外来種リストの重点対策外来種で、1990年代後半に関東地方に侵入して急速に分布を拡大している。在来の近縁種であるゴマダラチョウとの交雑が危惧されている。
写真2-ⅱ-11────アカボシゴマダラ
第2次調査で確認された16種の外来種については、外来生物法で指定されている種はない。しかし、シロチョウ科のモンシロチョウ(写真2-ⅱ-12)(調査地20か所中16か所)やマツムシ科のアオマツムシ(13か所)などは、港区内でふつうにみられる外来種である。モンシロチョウは奈良時代に菜の花のようなアブラナ科の作物とともに日本に入ってきたと考えられている。また、アオマツムシの原産地は中国で、日本での初記録は赤坂の榎坂で1900年頃といわれている(明治31年(1898)に赤坂のエノキで発見されたという説もある)。
写真2-ⅱ-12────モンシロチョウ
第2次生物現況調査(2009年度に実施)では、第1次の港区生物現況調査(1988年度に実施)と比較可能な5か所(芝公園と有栖川宮記念公園、青山霊園、第三台場、東京海洋大学)に出現した種数を比較している。その結果、第三台場で133種が130種と少し減少したものの、ほかの調査地点ではすべて増加していた。したがって、港区内の昆虫・クモ類の生息環境は、少なくともこの20年間は、安定していると判断されている。