❖自然と文化財の保護・保存

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 平成28年(2016)4月10日付朝日新聞朝刊に「遺跡と桜 悩む共存」「史跡も花も 地元と道探る」の見出しで2本の記事が掲載された。内容は、植栽されたソメイヨシノにより損壊の危機に瀕した国史跡「能島城」で、ソメイヨシノの伐採や移植が行われるというものであった。能島城は、14~16世紀に村上水軍として名を馳せた村上氏の居城で、昭和28年(1953)に国史跡に指定された。記事によれば、能島には約150本のソメイヨシノが植樹され、桜の島として人気を博してきたが、樹々の成長により史跡の保護・保存に重大な影響が出るようになった。そこで国や地元自治体はソメイヨシノの伐採・移植に踏み切ったのである。
 こうした、自然と文化財の保護・保存にまつわる課題は港区内でもみられる。その一つ、東京湾上に浮かぶ国史跡「品川台場」をみておきたい。
 品川台場(内海御台場)は、外国船の襲来対策として、幕末の嘉永6年(1853)から翌7年にかけて江戸湾及び地続きに構築された砲台で、11基の築造計画に対して海上5基と地続き1基の6基が完成した。明治以降、台場は東京港の整備等により、第三・第六の2基を残し破却された。残された2基は大正15年(1926)に国史跡に指定され、うち第三台場は昭和3年(1928)7月7日に都市公園として開かれ、さまざまな来訪者を目にすることができる。一方、第六台場は指定時の方針として今日に至るまで現状保存が図られてきているが、その結果、樹木が生い茂り、木の根の成長による石垣の崩落や内部の構築物の破損など、史跡としての現状に懸念がもたれている。港区が平成20年(2008)4月~21年6月に実施した生物現況調査によれば、海上からの観察結果として、カワウ、ゴイサギ、ダイサギ、コサギ、アオサギのコロニーがみられ、繁殖が確認されたとあり(港区 2010)、こうした鳥類によって運び込まれたさまざまな草木の種子が樹木の繁茂に与っている。
 国に留まらず、保護・保存目的以外の工事は原則不可とされる指定史跡は、自然保護の場としても貴重な存在となり得るだけに、歴史的な場やそこにある構築物等文化財の保護・保存と巧みに折り合いをつけつつ、自然の保護・保全にどう繋げていくかを考えることが大切であろう。
 文化財保護法、文化財保護条例に基づく文化財の分類に天然記念物という種別がある。現在港区内には6件(国指定2件、東京都指定2件、港区指定2件)の指定天然記念物がある。最も古い指定は「善福寺のイチョウ」で、大正15年(1926)10月20日に、国により指定されている。最も新しい指定は「氷川神社のイチョウ」で、平成6年(1994)9月27日に港区指定天然記念物となったが、以後、港区内で天然記念物指定を受けたものはない。他の4件を列挙すると、旧白金御料地(国、昭和24年4月24日指定)、芝東照宮のイチョウ(東京都、昭和31年8月21日指定)、旧細川邸のシイ(東京都、昭和36年1月31日指定)、増上寺のカヤ(港区、昭和55年11月15日指定)で、旧白金御料地を除けば、いずれも単独の樹木である。