方形周溝墓(ほうけいしゅうこうぼ)

39 ~ 39 / 278ページ
 方形周溝墓は、弥生時代を代表する墓のひとつです。低い方形の塚の周囲に溝を巡らした墓で、塚の中央に埋葬用の土坑(どこう)が掘られています。九州地方から東北地方まで広く分布し、古墳時代の前半までつくられました。この方形周溝墓が2基、伊皿子貝塚遺跡で発見されています(図2-4-2)。

図2-4-2 伊皿子貝塚遺跡の貝層と方形周溝墓


 伊皿子貝塚遺跡の方形周溝墓は、縄文時代の貝塚を掘り抜き、東西に並ぶように構築されていました。ともに全体の形状や規模を知ることはできていませんが、溝が全周するのではなく、溝と溝の間にブリッジがつくられる構造のものと考えられます。西側の第1号方形周溝墓は、北辺の溝の長さが10.7m、幅は中央付近で1.7m、東辺は検出部分で長さ11.6m、中央付近の幅は2.2mで、溝の形状から一辺が20mほどでした(図2-4-3)。また、中央部分と想定される位置で人を埋葬した主体部と考えられる土坑が検出されましたが、人骨や副葬品は発見されていません。

図2-4-3 伊皿子貝塚遺跡方形周溝墓北溝検出状況


 2基の方形周溝墓では、ともに溝内から壺形土器が出土しています(図2-4-4)。とくに第1号方形周溝墓から出土した壺形土器1点はほぼ完全な形を留めていました。これらの壺形土器は、いずれも弥生時代中期後葉の宮ノ台式土器で、2基の方形周溝墓が弥生時代中期後葉に築かれたことが確認されました(図2-4-5)。

図2-4-4 伊皿子貝塚遺跡検出第1号方形周溝墓北溝 壺形土器出土状態

図2-4-5 伊皿子貝塚遺跡検出第1号方形周溝墓出土遺物(縮尺1/6)


 伊皿子貝塚遺跡のある地に方形周溝墓をつくった人びとの居住地は明らかではありませんが、伊皿子貝塚遺跡の南西に位置する亀塚公園遺跡や東方にある三田台町遺跡で宮ノ台式期の土器が出土しており、方形周溝墓をつくった人びとがこのあたりに集落を営んでいた可能性は高いと考えられます。