港区立郷土歴史館では、常設展テーマⅡ「都市と文化のひろがり」で江戸時代を中心とする近世を扱っています。展示は、「江戸のまちづくり」(①)、「近世寺社の世界」(②)、「大名屋敷と大名」(③)、「旗本・御家人の世界」(④)、「町人のくらしと文化」(⑤)の中位のテーマによって構成されています。
「江戸のまちづくり」(①)の展示から見ることにしましょう。
港区域の本格的なまちづくりは、徳川家康が江戸入府を果たした天正18年(1590)から間もなく、北東に広がっていた日比谷入江と呼ばれる低湿地帯の埋め立て造成から始められました。その後、まちづくりは、2代将軍秀忠の時代を経て、3代将軍家光が将軍職に在った寛永年間に最初の完成を見ます。寛永末年近くの江戸を描いた図面にはのちの大江戸の片鱗が垣間見えます。増上寺の現在地への移転、東海道の整備、愛宕下の武家屋敷群の成立などはこの間のできごとです。しかし、明暦3年(1657)に発生した大火により、江戸のまちの大半が焼き尽くされます。江戸は、火事や地震などの自然災害にしばしば見舞われ、その度に姿を変えていきますが、そうした様子は映像によってたどることができます。
現在でも港区は寺が多いまちとして知られています。徳川家康の帰依を受けた増上寺が慶長3年(1598)芝に移り、江戸城の拡張事業の進展にともない、寛永12年(1635)前後には三田周辺に多くの寺院が移され寺町が形成されました。
「近世寺社の世界」(②)の展示は、港区を代表する古刹・善福寺と港区域の関わりの紹介から始まり、増上寺の歴史や徳川将軍家霊廟の様子を解説します。三田・高輪の寺町の様子は映像資料によって詳しく知ることができ、大名家とその菩提寺との関係や、寺院境内の空間構成について展示しています。さらに、上行寺跡・上行寺門前町屋跡遺跡発掘調査の成果を中心に、近世寺院の世界が考古学の視点から紹介されています。神社では、芝大神宮と赤坂氷川社の祭礼を通して、人びとが伝統を継承する姿を学ぶことができます。
大名屋敷の多さも、江戸時代の港区域の特徴の一つでした。「大名屋敷と大名」(③)では、はじめに港区域に屋敷を構えた大名が紹介され、仙台藩伊達家を中心に、大名屋敷の空間構成、屋敷内でのくらしの様子が解説されており、大名屋敷にくらした女性や子どもにも焦点が当てられています。また、汐留地区で発見された仙台藩伊達家屋敷跡の発掘調査の様子が映像でつづられ、歴史をさまざまな角度から再構成する試みを垣間見ることができます。
「旗本・御家人の世界」(④)は、六本木の花房家屋敷跡遺跡発掘調査の成果や麻布に居を構えていた旗本家の史料等を通じて、旗本のくらしぶりなどを学べる展示となっています。また、幕末・維新期に活躍した勝海舟に焦点を当て、時代の変革期の旗本の姿が紹介されています。
「町人のくらしと文化」(⑤)では、浜松町の古川河口に構えていた材木商・倉松屋嘉兵衛の屋敷が再現されています。往来の規模・構造や隣接する建家の様子など、江戸時代後期の商家の姿を立体的に学ぶことができます。さらに麻布や高輪の町の沽券図では、いずれも場末ですが、住民あるいは土地所持者の構成、土地の規模や価格などを知ることができます。また、遺跡出土遺物を通して、町人の暮らしぶりの一端が紹介されています。
国際都市・港区の基礎は幕末につくられました。開国によりいち早く外国公館が置かれた港区域には、さまざまな外国人が訪れ、やがて住居をもつ者も現れました。4階では、外国人の動向に注目し、幕末の歴史を、主に近現代史を扱うテーマⅢ「ひとの移動とくらし」の最初のテーマ「国際化にみる近現代」(⑥)で紹介しています。
(髙山 優)
港区内の施設 増上寺宝物展示室
増上寺宝物展示室は、平成27年(2015)4月に増上寺の大殿地下1階に開設されました。英国ロイヤル・コレクション所蔵の「台徳院殿霊廟(だいとくいんでんれいびょう)模型」を中心に、増上寺が所蔵するさまざまな歴史資料を見学することができます。台徳院殿霊廟模型は、明治43年(1910)に開催された日英博覧会に出品するため、前年に制作された1/10スケールの精巧な模型で、昭和20年(1945)の空襲で焼失した台徳院(2代将軍徳川秀忠(ひでただ))霊廟の姿を窺うには十分な資料です。